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「あ、燈里ちゃん、ここ〜」
待ち合わせの駅の改札を出た燈里に、胸の前で手を振って小声で呼び掛けて来た女性。
「千晶さん。ごめんなさい、遅れちゃって」
頭を下げながら小走りで駆け寄った燈里に、彼女は笑顔で首を左右に振った。
「いやいや時間通りだよ。こっちへ来てもらったんだしさ。……話してた店に予約入れたけど、それで良かった?」
「ええ、もちろん。私この辺りあまり来ないから良く知らないの。千晶さんの方が詳しいでしょ?」
気遣ってくれる彼女に心配無用、と答える。
「まーね、あたしの会社から近いし良く来るからね〜。以前同僚と行ったビストロなんだけど、こぢんまりして落ち着いてたしすごく美味しかったよ。飲みたかったら飲めるし」
燈里はアルコールは飲むこともあるし特に弱くもないが、どちらかと言えば美味しいものを食べる方が好きだ。
千晶にも、会わないかと話が出た際に「食事メインがいい」と伝えていた。
「人のおすすめのお店って楽しみだわ」
「じゃ、行こっか」
彼女は燈里の背に手を当てて、明るく先を促した。
千晶は、半年以上前に別れた恋人である京介の現在の交際相手だ。
自分でも意味不明だとは思うのだが、燈里は彼女と仲良くなった。
彼の友人が前の彼女と比較して貶す陰口を聞いてしまったことで、不安に駆られて燈里に電話してきた彼女。
番号は京介のスマートフォンを盗み見たらしい。
おそらくは京介のことが好き過ぎたのだろう。
京介を取らないで欲しい、と涙混じりで訴える千晶に、「彼はもう過去の存在だ」と事実を告げた。今の燈里には大切な恋人がいるからだ。
そのことも打ち明けて納得してもらった、と思っていた。
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