プロローグ:ドアマットモブは思い出す

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 彼女の名前はアイノ・プリンシラ。プリンシラ侯爵家の次女である。  二年前まで彼女は幸福な人生を送ってきた。しかし愛する母を亡くして日々は一転。  ほどなくして父が新しい妻と二人の姉弟を連れてきた。アイノが初めて会った姉弟は父と血が繋がった子供なのだと言う。父は仕事で王都に一人離れて住んでおり、不貞を働きこっそりと第二の家庭を築いていたのだ。  父の裏切りにショックを受ける間もなく、いつの間にか使用人は彼女たちが連れてきた者ばかりになり、新しい母と姉弟はアイノを虐げるようになった。父はアイノの現状を知ってか知らずか王都に戻ったまま顔を出そうとしない。  魚の骨をすりつぶし終えたアイノは自室に戻った。  彼女にあてがわれた部屋は、アイノ三人分ほどの小さな物置で毛布しかない。彼女が愛用していたものは姉に取られるか、売り払われた。母の形見であるネックレスだけはこっそりと靴に忍ばせて没収を免れたが。  ふうふうと手に息をあてる。物置は隙間風が入ってきて寒い。毛布をすっぽり頭からかぶさる。 「早く春がこないかなあ」小さなつぶやきは風の音でかきけされた。
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