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それは、なんとなく理解できるような、できないことで。でも、今それを詳しく説明してもらう時間はなかった。
紫の瘴気の勢いの方が強くて、金色の炎の勢いが弱くなっていく。それはまるでショコラの命を吹き消していくみたいに。
「待って、それでも理解できない。細かいことはどうでもよくて、とにかくショコラに消えて欲しくない!」
「貴女を最後に守れたら嬉しいわ。私は、私たちは一人残されるアルトのために生まれたから。でも私たちは生き物というわけではない。だから――」
「違う! だって、私がここにきてからのショコラとの日々は全部本物だったもの! それは生きてるっていうよ! 諦めないでよ、だってショコラの魔法ってすごく最強じゃない、このモヤを吹き飛ばす魔法、ないの」
涙で声が揺れる。アルト様の苦悶の表情や、明るく振る舞うショコラの声は嫌な予感しかない。私はアルト様の腕から抜け出し、ショコラの炎をかかえこむ。紫の瘴気は触れるとピリピリと痛んだ。
「アイノ」
アルト様が背後にきて、私の手を取った。
「アルト様、なんで諦めてるんですか!? だって、ショコラは、アルト様のたった一人の家族じゃないですか!」
「……」
アルト様に怒っても仕方ない。アルト様の表情を見ると、私よりももっと辛いのだろうとは思う。でも――私はまだあきらめたくない。
「アイノ、貴女が来てくれて私たちはもうそれで自分たちの役目を果たせたと思っているの。アルトは貴女と一緒にいて初めて未来を見ることができた。私たちはそれで充分」
「違う! 私とアルト様の想う未来は、二人と一匹のゆるやかな暮らしなの。だからお願い、諦めないで」
「最後は笑ってお別れしたいわ。ね、アルト。アルトはもう大丈夫よね?」
「……今まですまなかった、ありがとう」
アルト様の顔は歪んで目には涙がたまっている。そんなアルト様の顔がうまく見えない。涙で目の前がぐちゃぐちゃで、何にも見えなくなってきたからだ。いやだ、お別れなんてしたくない。
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