38 夜の終わりとはじまりの朝

3/3
前へ
/244ページ
次へ
「朝だ」  柔らかい光の中、私は目を覚ました。一番に目に入るのはアルト様の寝顔だ。光に照らされた黒髪をさらさらと撫でる。  しっかり閉じられた瞼が嬉しい。一緒に眠るアルト様はうなされることもなく、こうして安心した顔を見せてくれる。きっとアルト様はもう悪夢を見ない。 「朝か」  私の動きで起きてしまったのか、目をこすりながらアルト様も呟いた。 「暗黒期終わったんですかね」  昨日夜が訪れても、アルト様に角は生えなかった。翼もかぎ爪も大きな牙もなく。瞳も穏やか青のままだった。  もしかして、と思ってワクワクして眠りについたけど。想像していた通り、目覚めた先に朝はあった。 「朝ですねえ」  嬉しくて何度も朝だと呟いてしまう。  今日はきっと晴れの一日だ。窓から輝く光に浮足立って、待ちきれなくなって、アルト様を引っ張ってベッドから飛び出た。  庭に出ると待ち望んでいた太陽がそこにあった。雲一つない爽やかな朝だった。  プランターの前にしゃがみこむと、小さな芽がひとつ見える。昨日も雨だったから、小さな雫がついてキラキラと光っている。 「朝ねえ」  雫だと思ったけれど、ショコラだった。小さな声が聞こえてきて「朝だねえ」と私も返した。  そんな小さな会話が、涙が出るくらい嬉しくて。  隣を見るとアルト様も芽を覗き込んで微笑んでいる。 「朝ごはん、食べましょうか。フレンチトースト作ります!」  今日の元気も朝ごはんからだ。それから、せっかく晴れなのだから庭仕事をしよう。小さな幸せがいくつも待っている、そんな朝だ。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

165人が本棚に入れています
本棚に追加