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アライグマほど入念ではないにしろ、それなりに丁寧に手を洗った松島がリビングへと戻って来る。
ダイニングテーブルの上にはもう既に、藤井の手によって遅い夕食が用意されていた。
「わぁーおいしそう‼」
開口一番にそう言ってくる松島に、思わず藤井の頬が緩みそうになる。
必死になって表情筋を引き締めようとした結果、藤井の顔には複雑極まりない笑みが浮かんだ。
幸いにも、松島はテーブルに並んだ藤井お手製の『ハロウィンディナー』に目を奪われていたので、まるで気が付かなかった。
予想外にして予想以上の松島の喜び様に、藤井は途端に罪悪感を覚える。
「『遅くなるし、軽く食べてくる』って言うから、あんまりしっかりとした主菜じゃないけど・・・・・・」
「そんなことないって‼十分だよ!」
何故に、藤井はそんな風に言うのだろうか。
謙遜だか卑下だかの判別がつかないままで、松島には全く分からない。
藤井が用意してくれていたのは、ホワイトシチューだった。
松島が苦手な人参は入っていないので、シチュー皿はものの見事に白一色だ。
これは藤井のちょっとした『こだわり』と言おうか、――遊び心だった。
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