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 恥ずかしさと怒りとに任せて、思わず藤井は叫び出しそうになる。 その寸前で、思い止まった。 松島の顏が、笑っている顔が思い浮かんだからだ――。  それはけしていやらしいニヤニヤ笑いなどではなく、文字通り『破顔一笑』、童顔を弾けさせる大笑いだった。  次に自分の部屋を訪れた際に、松島に笑われた顔が前者なのも嫌だったが、後者はもっと嫌な藤井だ。  松島にそうされない、させない為にはどうすればいいのか・・・・・・ 藤井は名前の『智将』の如き沈思黙考にしばし耽る。 そうして出した結論は、結局、「そのままにしておく」だった。  捨ててしまったりしまい込んでしまったりしたら最後、何をどう説明しようが、松島に「自分独りでも使ってみた」と思われてしまう。 それは、――それだけは、何としてでも避けたいと藤井は思った。  三十路も近い今まで、オモチャを用いるほど熱心にしたことがなかった。 それが今さらすっかりと覆ってしまうのが、藤井には怖かった。  怖いのは、松島にそうされることがではなく、松島にそうされることを受け入れてしまう自分自身がだ。  だから、あえて黙殺をすることに決めた。
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