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分かりやすく、松島が食いついてきた。
藤井が返信を送ってすぐ、――ほとんど反射的な素早さで松島から反応が、返事が来た。
しかも、メッセージではなくて、通話で。
「藤井‼」
「あ、あぁ」
開口一番、大声で名前を呼ばれて藤井はたじろぐ。
思わずスマートフォンを落としてしまいそうになった程だ。
「憶えててくれてたんだな!」
「憶えているも何も――」
たった半年前のことだ。
松島が初めて泊まった翌日の朝、会話の中に出てきた料理名だった。
真正直にもそう言いかけて、藤井は止めた。
その、「たった半年」の間に一度も、『エッグベネディクト』の名前は二人の口に上らなかった。
――松島が藤井の部屋に泊まる機会は、それこそ何度もあったというのに。
「食べたかったら、提案してくれればよかったのに」と思った藤井は、その言葉も又、飲み込んだ。
本腹も別腹も底なしと思われる松島だったが、一応『遠慮』をしてみたのだろう。
「全く――、らしくもない」と心密かにバッサリ断じる藤井の口の両端は、くっきりと持ち上がっている。
電波を介して、松島が藤井の二の句を急かしてきた。
「何も?一体、何だよ?」
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