18

2/5
前へ
/122ページ
次へ
 分かりやすく、松島が食いついてきた。 藤井が返信を送ってすぐ、――ほとんど反射的な素早さで松島から反応が、返事が来た。 しかも、メッセージではなくて、通話で。 「藤井‼」 「あ、あぁ」  開口一番、大声で名前を呼ばれて藤井はたじろぐ。 思わずスマートフォンを落としてしまいそうになった程だ。 「憶えててくれてたんだな!」 「憶えているも何も――」  たった半年前のことだ。  松島が初めて泊まった翌日の朝、会話の中に出てきた料理名だった。 真正直にもそう言いかけて、藤井は止めた。  その、「たった半年」の間に一度も、『エッグベネディクト』の名前は二人の口に上らなかった。 ――松島が藤井の部屋に泊まる機会は、それこそ何度もあったというのに。  「食べたかったら、提案(リクエスト)してくれればよかったのに」と思った藤井は、その言葉も又、飲み込んだ。  本腹も別腹も底なしと思われる松島だったが、一応『遠慮』をしてみたのだろう。 「全く――、らしくもない」と心密かにバッサリ断じる藤井の口の両端は、くっきりと持ち上がっている。  電波を介して、松島が藤井の二の句を急かしてきた。 「何も?一体、何だよ?」
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加