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特別ワインに興味があるわけではないが、「どんな料理に、何のワインが合うか」は大いに気になる藤井だった。
グラスは脚なしの、もっぱら他の酒類を飲むのにも使っているものにする。
今夜の様な『軽い夜ご飯』には、これで十分だった。
「松島、パンにするか。それともご飯か」
「ご飯がいいな。さっき小腹鎮めにサンドイッチ食べたから」
振り返り訊ねてくる藤井へと告げる松島の注文は、全く迷いがない。
「小腹じゃなくて大腹だろ。――しかも、立派な別腹まで持ってるくせに」
「どっちも今はすっからかんだよ。ね、お腹いっぱい食べさせて」
「・・・・・・」
藤井に応じる松島の表情が、声が甘い。
細まった目の光が蕩け、ささやきは低く掠れていた。
空腹感に急かされ、飢えてガッついた感じはまるでしなかった。
それが藤井にとっては堪らなく煽情的に思えた。
つい、憎まれ口を叩いてしまった藤井は「墓穴を掘った」と思った。
松島と初めてした後にも、同じ様なことを言われたのを鮮やかに思い出してしまった。
あの時は、料理と甘いものとに加えて、藤井自身も松島にお腹いっぱい食べられた。
そして藤井も又、松島をお腹いっぱい食べたのだった・・・・・・
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