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全くの予想外、想定外の藤井の対応と発言とに、松島は口ごもるしか出来ない。
「えぇっと、そのぅ、あれは・・・・・・」
「まさか――、もう失くしたんじゃないだろうな⁉」
包丁こそ手にしていなかったが、藤井の凄まじい剣幕に松島は恐れおののいた。
高温の青白い炎の様な殺気が、背後でユラユラと立ち上っているのが見える。
そんな気すら、する。
「ち、違う‼失くすといけないと思って、大切に保管してある!」
苦しまぎれの末にとっさに吐いてしまった、松島の嘘などではなかった。
本当のことだった。
『行きつけのスーパーマーケットが同じ、近所に住む友人』だった頃は、松島は藤井と週末に、ただ食事をするだけだった。
恋人として付き合い出すと、毎日ではないがそれは平日にまでも及んだ。
しかも、するのはただの食事だけではなくなっていた・・・・・・
「これじゃあ、時間がいくらあっても全然足りない!」と思っていたのは、どうやら松島だけではなかったらしい。
本来であれば、営業職で帰宅時間が不規則になりがちな自分の方から行なうべきことだったと、松島は反省頻りだ。
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