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二人が恋人として付き合い始めて三ヶ月が過ぎた、五月のとある平日に、
「大抵は居ると思うけど、一応渡しとく」
藤井は実に素っ気なく無造作に、わざわざ新しく作ってきたばかりと思われる合鍵を松島へと差し出してきたのだった。
銀色の薄っぺらい金属片を受け取った時の松島の手は、明らかに震えていた。
大げさなどではなく、ピカピカとやたらに光る鍵が目に眩しくて堪らなかった。
何かの記念日でもイベントでもない、全く何でもない日に突然、大好きな人からもらった大事な贈り物――。
松島はそう思い、その様な取り扱いをした。
鍵が付いた引き出しの中の、しかも一番奥へとそっと隠したのだ。
藤井の背景で揺らめく青白い炎は徐々に弱く、下火になっていく。
「全く・・・・・・しまい込んでたら使えないだろ」
「合鍵作って渡した意味ないじゃん」と、ボソッと言い足した時には完全に鎮火していた。
歯切れが悪い小声は、藤井の不機嫌の印だ。
主に寝不足の時や、寝起き直後に見られる。
「――もしかして寝てたとか?」
合鍵をもらっていようがいまいが、そんなことは全然関係ない。
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