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絶望的なまでに全く笑っていない藤井へと、松島は半ば自棄になり叫んだ。
「ハ、ハッピーハロウィン~‼」
「・・・・・・」
詰まった上に裏返ってしまった松島の声へと、藤井は沈黙を返す。
至近距離なので相当大きく聞こえるだろう声にも、まるで動じない。
「お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうゾ~ガオー‼」
柔らか素材の造り物だが、長い爪で脅かす様に振りかざした両手を見上げる藤井の目は至って冷静だ。
黒縁メガネの奥の瞳が冷たく光って見えたのは、松島の被害妄想だろうか――。
ほんの小さくだったがため息めいたものまでもが、藤井の引き結ばれた唇から漏れ出てきた。
「まぁ、とにかく早く上がれよ」
「はい、お邪魔します・・・・・・」
松島は素直に、藤井の仰せの通りに従う。
律義にも頭を下げた拍子に、毛足の長い耳も併せてぴょこんとお辞儀をした。
その決定的な瞬間をばっちりと目撃してしまった藤井は、それはそれは笑いをかみ殺すのに必死になっていた。
うつむいていた松島は当然、そのことを知らない――。
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