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ややうつむき加減だったので、藤井自身も知らず知らずのうちに上目遣いになっていた。
松島の両手が、藤井の頭をそおっと抱える。
手のひらに触れた藤井の両耳は血を集めていて、とても熱かった。
「全然。おかしくなんかないよ。藤井はお菓子のこと、好きだと思う」
「えっ」
驚く藤井に、松島は驚いた。
「だって、前に『美味しいと思えないのに食べるのが嫌だ』みたいなこと言ってたじゃん。それって、お菓子が好きだからなんだと思う」
「そう、なのか・・・・・・?」
自分のことだというのに、藤井はなおも分からない様だった。
松島が言う意見にも不承不承で半信半疑なのが、表情にバッチリと現れ出てしまっている。
「そうだよ」
対する松島は、全く迷いなく藤井へと断言をした。
その顏は、言うなれば『明鏡止水』の如くに澄み切っていた。
裏表などなく、ただただひたすらに明るい。
呆然としている藤井を、松島は笑い飛ばした。
「じゃなかったら、例え材料が半額で売ってたとしても、わざわざ買って、好きでもないケーキを焼いたりはしないだろ?」
「・・・・・・」
藤井は黙って、松島の言葉の一言一句を噛みしめてみる。
確かに、その通りだった。
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