95人が本棚に入れています
本棚に追加
2
松島を出迎えた藤井の冷ややかさとは真逆も真逆、対照的なまでに室内は温かかった。
いくら何でも、暖房をつけるにはまだ早い季節だ。
藤井が住む部屋に門などはないが、『門前払い』をされずに済んだ安心感が松島にそう思わせたのかも知れない。
考えられる温かさの源が、キッチンのガス台の上にあった。
ホウロウ製の片手鍋の火は、消されてまだ間もない様だった。
鍋の蓋を取った藤井が玉杓子で中身をかき混ぜると、たちまち白い湯気が立ち上った。
「いい匂い~」
藤井には呼ばれていないのに、湯気に誘われた松島はキッチンへと直行してくる。
その後ろで、フサフサとした造り物のお尻尾が、千切れんばかりにブンブンと振られている・・・・・・
さすがの松島もそこまで装着をしていないはずだと、藤井は真っ先に自分の目を疑った。
案の定、二度見をしたらあっさりと消えてなくなった。
一瞬とはいえ、妄想までしてしまった自分を誤魔化すかの様に、藤井は松島へと厳命する。
非情にも、人差し指で手袋をビシッと指し示した。
「ソレ外して、手洗って来いよ」
「うん、分かった・・・・・・」
最初のコメントを投稿しよう!