玖 鼓舞の明

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何度も色んな人に助けられてきたこの私に、何ができるって言うの? 「何してる巫寿ッ! さっさと行けこのノロマッ!」 顔を顰めた恵衣くんがそう怒鳴った。 きつく拳を握りしめる、握りしめて、そして走った。 走って────恵衣くんの隣に立ち扉を強く抑えた。両手に激しい衝撃が伝わってきて、ギュッと唇を噛み締める。 「何やってんだよ馬鹿ッ!」 珍しく恵衣くんが慌てた声を上げた。 守ってもらうのはもう終わり、大切な人を守るために私は神修に残って強くなる道を選んだんだ。 「馬鹿でも何でもいいよ……ッ!」 何だって好きに言えばいい。 誰かがまた傷付くのを見るくらいなら、罵られようと何だろうと構わない。 クソッ、と耳元で舌打ちした恵衣くんは、顔を上げて叫んだ。 「おいお前! 来光を叩き起こせ!」 「え、え!?」 「さっさとしろ聞こえないのか!」 恵衣くんにそう凄まれて、ノブくんは担いでいた来光くんを床に下ろして激しく揺すった。 やがてゆっくりと目を開けた来光くんが、ノブくんに支えられて体を起こす。 「おい来光ッ、今すぐもう一枚書け!」 そう叫んだ恵衣くんに、来光くんが顔を顰めた。 「無茶……言うなよ。もう筆も、握れないって」 「なら気合いで書け、お前の取り柄は書宿の明くらいだろうがッ!」 「マジで……僕のこと、殺す気かよ」 来光くんが青い顔をして息を吐いた。 ゆっくりと懐に手を伸ばし袱紗を取り出す。しかしパサリと床に落とした。手が力なくだらんと垂れる。 く、と苦しそうに歯を食いしばり目を細めた。
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