11人が本棚に入れています
本棚に追加
「何それ。そんなわけないじゃん!」
「そう思うでしょう? でもねぇ……。というわけで送り迎えはしてあげるから」
部屋に戻ると投げ出した本が風でぱらりとめくれて、主人公カイが暗い扉の向こうへ足を踏み入れている瞬間の絵が見えた。
自分が書いた原稿用紙の下書きを消しゴムでゴシゴシと消す。一度くらいは皆に怖い、面白かったと言わせたい。個性的だという透は、この手の相談に気安く乗ってくれるタイプだろうか。
「参考になるのはこんなもんか」
大量の付箋が飛び出た本は、どこか妖怪じみて見えた。
日曜日の午前中、母の車で祖父の家に行く。「お前は上がっていかないのか。昂輝、よく来たな」
「うん」
「はい、お弁当。皆で食べて」
「おお。有難う。おっ、ずっしり重いな」
「そりゃあ、男三人もいればね。透君は、もう来てるの?」
「いや。電車が遅れてるとかでな」
「そうなの。お父さん、また夕方迎えに来るから」
手を振ってさっさと出かけて行った。
「お母さん、この家が変だって」
「ん? お前の母さんは怖がりでな。いつもそんなこと言ってるんだ」
「へえ」
「あ、電話だ。ちょっと待ってな」
最初のコメントを投稿しよう!