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8 結局、それ以上時間を潰すことはできなかった。 ジャックのフラットの前についた時は、まだ十時半にもなっていなかった。 だが玄関ドアの前に立った時、もう俺には、何のためらいもなかった。 ベルを押すと、予想していたよりもずっとあっけなく、ジャックが扉を開ける。 「グットモーニング、サー」 ジャックは、丁寧に俺に挨拶をした。 全くもって『お早う』がふさわしい時間帯に違いなかった。 俺もジャックに挨拶を返してから左肩を軽くすくめ、「入っても?」と尋ねる。 ジャックは、大げさに両腕を広げて見せた。 「良いも悪いも。どっちにしたって、お入りになるつもりなのでしょう? サージェント・メイジャ」 随分と、皮肉めいた口のきき方だった。 俺は部屋の中へと進んでいく。 大した広さのフラットではなかった。 キッチンはダイニングルームと兼用で、簡単な朝食を並べたら一杯になってしまいそうな小さなテーブルと椅子が一脚。 リビングには、一人掛けのソファーとテレビなどが置いてある。 右奥に続くほんの短い廊下に、ドアが向い合わせに二つ並んでいて、それぞれベッドルームとバスルームになっているようだった。 ジャックはハイゲージの黒いタートルネックのプルオーバーに洗いざらしのジーンズといった格好をしていた。 そして、パニーノの包みを見ながら、不思議そうに尋ねる。 「何を抱えていらっしゃるんです?」 俺はまだ温かいその包みを、ジャックの腕に押し付けた。 「そこのデリで。美味そうだったからな」と付け足し、俺はコートのボタンを外す。 ジャックがすかさず背中にまわり、コートを受け取った。 壁のフックに一つだけかかっていたハンガーを取って、俺のコートを掛ける。 「手を洗いたい。洗面所を使わせてくれないか」 振り返って尋ねると、ジャックはハンガーを両手で持ったまま、固まったように立ちつくし、俺を眺めていた。 「どうした?」 俺の声に、ジャックは弾かれたように動き出し、持っていたハンガーをフックに吊るして戸惑いがちに言う。 「だって、制服……」 「制服がそんなにめずらしいか、自分だって毎日のように着ているだろう?」 俺はジャケットのボタンも上から順にはずしていく。 部屋は暖房が効き過ぎなくらいだった。 「今、オン・デューティーなんですか?」 「手を洗いたいのだが?」 俺は重ねて尋ねた。 すると、ジャックは、右奥にあるドアのうちの一つを開け「どうぞ」と指し示す。
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