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トンプソン巡査部長へのインタビューが終了し、書類をまとめ終わると、もう十九時近くになっていた。
俺は携帯を取り出し、慌ててニーナに電話を入れる。
数コールでニーナが電話に出た。
「今から帰る」
「スタンリー、予想してたより早かったわね、夕食は何が食べたい? 買い物に行ってきたから何でも出来るわよ」
そんな比較的機嫌の良さそうな声が返ってくる。
「そうだな……チーズ・マカロニ以外なら」
俺がそう応じると、ニーナは不思議がりながらも「わかった。気をつけて帰って」と言い、キスをよこした。
俺は電話を切り、腕時計に目を落とす。
「ジャックがシフトに入る時間だ」と。ふと、そんなことを考えた。
*
ニーナはチキンとトマトのオーブン料理を用意していた。
ケイジャン風で出来栄えは悪くなく、少々冷やし過ぎではあったが、甘めの白のナイアガラと良く合った。
「仕事の方は……何かか見付かりそうなのか」
言葉を発して、瞬時にそれを後悔した。
日中のジャックとの情事で性欲が満たされ、更に今、食欲も満たされた俺の口は、いささか滑りが良くなりすぎていたかもしれない。
「オープン・カレッジの講師にひとつ空きが出ているみたいなの。でも講座単位の雇い切りで、大学での特典もほとんどないし。失業手当も、福利厚生も何も付かないのよね」
やや早口に、ニーナが応じる。
その程度の待遇の仕事には「明らかに不満である」と窺い知れる口調だった。
これ以上、この話題に踏み込むのは、ニーナに不機嫌を呼び込む結果になりかねない。
けれども、日中の「インタビュー」の調子が抜けていないのか、俺は思わず話を続けてしまう。
「あまり満足のいくポジションじゃないことは判るが、とりあえず引き受けてみたらどうだ」
予想通り、ニーナは少し顔を険しくする。
しかし、意外なことに、ニーナは少し黙り込んだ後、静かな口調でこう返してきた。
「……そうね。確かに、あなたの言う通りかもしれないわ、スタンリー。やってみるのもいいかもね」
ヒステリックに巻くし立てることもなく、ニーナが引き下がったことに安堵して、俺はチキンの最後の一切れをワインで胃の中へ流し込む。
そして、すぐに席を立つと、ニーナと手分けして食器類をディッシュウオッシャーにかけた。
その夜、ニーナがベッドで求めてきた時、俺はどうやったとて、とてもそんな気にはなれなかった。
「今日は疲れているから」となだめたが、ニーナは諦めなかった。
仕方なく、ジャックの唇がペニスを愛撫する感触を思い出しながら、俺はニーナのキスに応えた。
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