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「待って、今、動かしたら……。スタン、嫌だ」 ジャックの懇願を聞き流し、俺はなおもゆっくりと腰を回し続ける。 「駄目、出る……」 ジャックは体中を痙攣させて俺を締め付けると、シーツの上に白い液体を激しくほとばしらせた。 痙攣が止まらないジャックの身体を汚れたシーツの上に仰向けに横たえ、俺はジャックの中に自分を一気に、奥深くまで挿し入れた。   なおも数回射精した後、ジャックは枕の中に顔をうずめて、まるで人形のように動かなくなった。 俺は静かにベッドから降り、シャワーを使った。 冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り、直に口をつけて飲みながらベッドルームに戻る。 さっきジャックがクローゼットから取り出しかけていたシャツを、床から拾い上げて袖を通した。 俺は手にしているタオルで、汗と精液で濡れたジャックの身体を軽く拭くと、デュヴェを広げて肩口まで覆うようにかけ直してやる。 そして、リビングルームのソファーに座り、シガーを銜えて火をつけた。 しばらくくゆらせてから、この部屋に灰皿が無かったことにふと気が付いた。 立ち上ってシンクの方へと向かう。 するとジャックが、スウェットパンツだけ身につけてベッドルームから出て来た。 「起こしたか?」 俺が尋ねると、ジャックは大きく首を振った。 「そうじゃないけど。少し、タバコの匂いがしたから」 言ってジャックは、俺に何かを差し出した。 「うちには灰皿がないんだ。よかったらこれを使って」 ジャックに手渡されたのは「箱」だった。 アンティーク風の安っぽい細工が施された、あちこちガタがきているフタ付きの箱。 真鍮か何か、もっと中途半端な合金で出来たものだ。 「ヴィンテージ」と言うカテゴリーにも当てはまらない、まさに「ガラクタ」だった。 「何だ? これは」 フタを開けてみると、内張りの布はほとんどはがれていて、中途半端なくぼみがあった。 「オルゴール?」 俺が尋ねると、ジャックは「……多分」と答えた。 「最初からこんなだったんだ」 ジャックのベッドルームの棚に押し込んであった雑多な物が、俺の脳裏に浮かぶ。 「この家には、何の役に立つのか判らんような物は色々と有るんだな、ジャック?」 そんな俺の皮肉に、ジャックは、 「この箱。僕が持ってる物の中で、多分一番古いものなんだ。物が古いって言うより、小さかった頃から持ってるって言う意味だよ」と、微笑みで応じた。 俺は手にしたシガーの灰が落ちないよう、掌で包むようにフィルターをつまみ直す。 「そのことに気が付いたらなんだか捨てづらくて。ずっと持ってた。いつから持ってるのかも、もう判らないんだけどね」 ジャックは俺の指からシガーを取って、そっと箱のフチに載せる。 灰が静かに、箱の底に落ちた。 「灰皿にして良いのか?」 そう尋ねると、ジャックは俺を見上げ、満足そうに頷く。 「この箱、今、初めて役に立ったんだ。ずっと持ってた甲斐があった」 ジャックは、俺が飲んでいたミネラルウォーターのボトルを掴むとソファーの足元に腰を下ろし、それを一気に飲み干した。 俺は再びソファーに腰かけ、シガーを咥える。 しばらくの間。 巻紙の燃える微かな音と、時折、外を通る車の音を聞きながら、俺とジャックは黙って座っていた。 二本目のリトルシガーを取り出した時。 「スタン」と、ジャックが俺を呼んだ。 シガーに火を回しながら、次の言葉を待っていたが、ジャックはそのまま黙りこんでしまう。 「どうかしたのか」 俺は、ゆっくりと煙を吐き出した。 「あのさ……」「何だ、さっきから? はっきりしろ」 灰を落として、俺は再びシガーを咥え直す。 ジャックは自分の膝に顔を埋めて黙り込んでいたが、ついに口を開いた。 「スタンは、さっきさ。ちゃんと、良かった?」 「何のことだ」 俺はジャックを見つめながら問い返す。ジャックは再び顔を伏せた。 「……ああ。お前、挿れたかったのか?」 「違うよ! そういうのじゃなくて。だって僕ばっかりで……スタン、イッてないよね?」 「そんなことか」 俺は思わず笑ってしまった。 「お前、幾つだ? ジャック」 「もうすぐ二十三だよ、どうして?」 「俺はお前より、十は上だな」 俺は煙を吐き出しながら呟いた。 「どういうこと?」ジャックは膝から顔を上げて、やっと俺を見た。 「まあ、年季が違うってことさ」 俺はわずかに左肩をすくめて見せる。 ジャックは不満そうに顔をしかめながらも、黙ったままだった。 俺は灰を落としてから、こう続ける。 「ファイアアームの授業でも言っただろう? お前たちに。『無駄弾』は撃つなと」 ジャックの深緑色の瞳を見つめ、俺は少し笑って見せた。 「なにそれ」 ジャックは、更に不満げな顔になる。 「本気で言ってるんだか何だか、全然判らないよ、スタンって相変わらず、石みたいに無表情なんだから……」 「むくれるな」 俺は手を伸ばして、ジャックの髪を乱暴に撫でた。 「さっきはただ単に、手元にコンドームがなかったというだけだ」 ジャックは俺の指を掴むと、自分の頬に引き寄せる。そして、 「なんだ、『そんなことか』」と、俺の口真似をして言った。 そしてジャックは、床に座ったまま俺の膝に頭を持たせかける。 ジャックの髪の柔らかさが、腿に直に感じられた。 俺の膝を、両手の指でゆっくりと愛撫しながら、ジャックが股間に顔を埋める。 「ジャック」 シガーを銜えたまま呼びかけると、ジャックは顔を上げ、俺の目を見つめた。 「俺は、俺の好きなようにやっている、お前も自分の好きなようにしていろ」 ジャックは俺を見つめたまま、指を俺の膝から更に上の方へと這わせて、 「僕がしたいんだ。スタンを舐めたいんだよ」と言い、ジャックは俺のペニスを、口腔の奥深くまで含み込む。 「……お前、思ってたより、ずっといやらしいヤツだな」 俺はジャックの髪を激しく手で愛撫しながら、からかうように囁いた。
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