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俺が「担当した訓練生をほとんど覚えている」というのは本当のことだ。
ジャックを覚えていたのは、優秀だったからということもあるが、それだけではない。
「好みのタイプ」だったからだった。
アカデミー在籍時に、ジャックが俺に特別な思いを抱いていたことには、気が付いていた。
俺の「好み」かどうかにかかわらず、カデットの中には幾人かそういったヤツが出てくる。
勿論、同性、異性を問わずだが。
職場でむやみと男を漁るつもりはなかった。ましてやカデットなど、もってのほかだ。
九十年代に入って状況が、かなり変化しているとはいえ、俺自身がカデットだった頃、RCMPは、率先して公務員の「ゲイ狩り」に勤しんでいた。同性愛者が、おおっぴらに入隊なんて、ありうべくもなかった。
アカデミー修了から配属、実務訓練へと進んで行くにつれ、特に目をつけられない限り「私生活」を探られることも減っていく。
今では「ゲイ狩り」も行われなくなった。
さらに時代は変わるもので、ここのところは、ゲイパレードの会場にRCMPのリクルート部隊がテントを出そうかと言うような話も出ているらしい。
もちろん、こんな状況になるよりもずっと前から、騎馬警官の中に、かつては当局が好まなかった性的指向の持主が、少なからず存在していたことは間違いなのだが……。
ただ、そういった問題以前に、俺は自分の任務の重要性を十分に把握しているつもりだった。
カデットの訓練は、お遊びではない。
訓練生に適切な能力を身に付けさせることが、アカデミーの目的だ。それも自身と他人の安全を確保した上で、職務を遂行する能力を得させなければならない。
当然と言えば当然だが、アカデミーでの指導は各警官の命に直接関わる問題だ。
誰が言い出すのか、俺は、毎期のようにカデットから「ストーン・コールド」と呼ばれるようなっていた。
無表情過ぎるとでもいうのだろうか?
厳しすぎるという意味かもしれない。
カデット風情が何と言おうが、俺の任務には関係ない。
しかし、少々解せない話だとは思わないか?
そもそも、仕事中にいちいち感情を顕わにする必要が、どこにあると言うのだ。
今、俺は「デポ」から転属しているし、ジャックは上級巡査だ。
俺が教官でないように、ジャックも、もはや訓練生ではなかった。
――劇場街で偶然ジャックと再会した時。
ニーナともうひとりの警官、ガードナー巡査部長の目を盗み、携帯番号をジャックに渡すことが、どれだけ困難でどれだけスリリングだったことか。
とはいえ、その時のジャックの反応は、少々意外なものでもあった。
ヤツは俺のした事に動じることなく、顔色ひとつかえずやり過ごしたのだ。
それには助かったとは言え、正直、多少の驚きもあった。
意外な反応、とでも言おうか。
アカデミー時代のヤツの印象からは、ちょっと想像できない対応だった。
当然、ジャックに現在、決まった相手がいる可能性もある。
だが、俺はそんなことは、全く気にならなかった。
連絡をよこすかどうか、決めるのはジャックだ。
もし、ジャックが連絡をよこしてくるならば、ヤツは俺に抱かれたいというということだ。
劇場街でジャックが俺を見つけて近づいてきた、あの時の表情――
連絡は来る。
俺は確信していた。
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