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6 インタビュー用の調査票をまとめる作業が、まだしばらくかかりそうだった。  RCMPのサーバーにある俺の電子キャビネットと各種のデータベースへは、管区内の警察機関のPCからしかアクセスできない。 家に持ち帰ることが出来ない以上、作業は、オフィスで終わらせておくしかなかった。 ニーナのモヴァに連絡を入れておこうと、デスクの電話の受話器を取る。 呼び出し音は、すぐに留守番電話に切り替わった。 遅くなるとメッセージを残し、俺は受話器を置く。 ニーナは元々トロントっ子(トロントニアン)で、俺が異動でレジャイナから出ると決まった時には、喜びを隠そうともしなかった。 こっちに転居してから随分経つが、未だに出かけ回る場所に困るという様子もなさそうで、始終、ダウンタウンに足を運んでいる。 「仕事を探している」 ニーナはそう言っていたが、どこまで本気なのか。 俺は少々疑問視していた。 結婚前、ニーナはロントで社会学のドクターコースに在籍していた。 だから、研究再開のため大学でのポジションを探しているのだと言う。 たとえ「配偶者」がトロントで定職を得たとしても、俺の転勤がなくなるわけではない。 「騎馬警官(マウンティ)はカナダ全土どこにでも、いつ飛ばされるか分からない」ということは、十分、ニーナには言い聞かせてあるのだが―― ともかく「ロンドン市が俺のメインオフィスになること」は早くから判っていたから、トロント寄りに住むにしても、せめてダウンタウンの西、郊外の方に部屋を借りたいと、俺は思っていた。 しかし、「もう『田舎』には住みたくない」と言い張るニーナの意見を曲げることはできなかった。 ユーコンやヌナブトに行くわけじゃないというのに。 オンタリオ湖沿岸一帯でさえ、市内を外れれば、即座に「田舎」呼ばわりするようなニーナだ。 どう説得のしようもない。 結局、俺はオフィスから家まで、一時間半の道のりを運転して通勤する羽目になっていた。
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