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PCをシャットダウンし、帰り支度をする頃には、十九時をとっくに回っていた。 明日からの仕事で必要なペーパー類を確認し、それらをブリーフケースに入れる。 そして制服の上にコートを纏い、自室を後にした。 三階の俺のオフィスの周囲は、もうひと気がなく閑散としていたが、地階には、まだ若干の賑わいがあった。 すれ違う職員や制服警官と軽く挨拶を交わしながら、パーキングへ向う。 自宅にたどり着いたのは、二十一時近くだった。 家に灯りはなかった。 携帯をチェックすると、ニーナからのメッセージが入っている。 「友人と食事をしてくるので、夕食は適当に食べていてほしい」という内容だった。 俺は制服を脱ぎ捨てて裸になる。 ジャケットをハンガーに掛け、スラックスをプレッサーに入れた。 そして、熱いシャワーを浴びるため、バスルームへと向かう。 デスクワークで凝り固まった腕やこめかみをゆっくりと揉みほぐしながら、俺はしばらくの間、額をあげてシャワーに打たれ続けた。 ジャック―― ランニングのタイムトライアルで、トップクラスの成績を出しながらも、ゴールで崩れ落ちるように倒れ、苦痛に顔を歪めて喘ぐヤツの姿が、脳裏にフラッシュバックする。 訓練着の上からもはっきりと判る、引き締まって盛り上がったヒップ。 形の良い顎、首筋、そして長い指。 手首を余計に華奢に見せる豆状骨の隆起。 下腹部が熱を帯びてきた。 ペニスは既に、硬く勃ち上がっている。 触れた瞬間、予想以上に激しい快感が突き上げてきて、俺は思わず低く呻いた。 シャワーを全開にしたまま、バスルームの壁にもたれ、熱いペニスを両手で玩ぶ。 痺れるような快感が腰から背中、首筋に突き抜け、そのまま達してしまいそうになった瞬間、タオルの上に置いた携帯が着信音を立てた。 両手をゆっくりとペニスからほどきながら唾を飲み込み、荒くなった息を抑え込む。 そして、腕を伸ばして携帯を取ると、上半身だけシャワーから離し、少し前屈みになりながら通話ボタンを押した。 「スタンリー? 今どこ、何してた? あらこれ、何の音?」 ざわめきをBGMにしたニーナの上機嫌な声が、耳に飛び込んでくる。 「シャワー中だ。今、家に戻ったところだった」 俺は右手で蛇口をひねり、シャワーを止めた。 「ごめんなさい。今わたしまだ、ダウンタウンにいるの」 おそらくバーか何かからだろう。 ニーナの声の様子からすると、何杯かアルコールが入っているようだ。 「食事は? スタンリー」 「これからだ」 俺はバスタオルを頭から被り、軽く身体の水気を取ってから、バスルームを出た。 「何か買って帰って欲しい物、ある?」と尋ねるニーナに、適当にするから心配しないように告げる。 携帯を耳にあてたまま、タオルを腰に巻き付けてキッチンへ向った。 シンクに寄り掛かりシガーに火を付け、レンジの上の換気扇のスイッチを入れる。 「ニーナ、飲んでるのか?」 俺は煙を吐き出してから言った。 「少しだけよ」 言い訳気味なニーナの口調。 ガレージにニーナの車はなかった。 運転して帰ってくるつもりなのだろう。 「ゆっくりしてきて構わないから、しっかり酔いを醒ましてから帰っておいで」 非難がましい口調にならないよう、俺は細心の注意を払って言う。 そして、こっちは心配しなくていいからと再び言い添え、通話を切った。 やれやれ、と声にしない呟きを漏らし、二本目のシガーに火を点ける。 冷蔵庫の扉を開き、中を覗き込んだ。 シガーを銜えたまま、俺はミルクとハム、チーズを取り出してキッチンの上に並べる。 大きめのタンブラーに、スコッチをたっぷりと三分の一ほど注ぎ、その上からミルクもたっぷりと注いだ。 棚からパンを取り出し、その上にハムとチーズを、これ以上ないという程、思い切り分厚く切ってのせる。  俺はこの即席サンドイッチを二つ作った。 シンクの側に立ったまま、それを、スコッチ・ミルクで空っぽの胃の中に流し込む。 パン屑をシンクに払い落としながら、俺は三本目のシガーを銜えて火を付けた。
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