ka・i・gi・shi・tsu

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ka・i・gi・shi・tsu

𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬  次々あらわれる指示に導かれて  たどり着いたのは、  かろうじて『議』だけ読める、  会議室だった。 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ ‬  三階まで上り切った壁に、また画用紙を見つけた。  ≪ 右折→ ≫  画用紙の指示通り右折すると、すぐ次の指示があった。  ≪ 直進↑ ≫  ≪ ←突き当り左折 ≫  ≪ 直進↑ ≫  ≪ ここを右折→ ≫ 「なんだか『注文の多い料理店』みたい。」  次々と現れる赤い文字の指示に、私は思わず笑ってしまった。  指示に従って歩いているうちに、最初に感じていた不安はいつの間にか消えていた。それどころか、この指示通りに進めば出口に近づくのではないかと信じるようにもなっていた。  影人間たちは、私に何かを伝えようと必死だった。  あれはきっと、嘘じゃない。  ≪ 会議室 ≫  赤い絵の具でそう書かれた画用紙を、廊下の壁に見つけた。私が目指すべき場所は、その『会議室』なのだろう。この近くにあるはず。そう思って、注意深く探した。 「ここかな……?」  それらしい文字を、木製の引き戸の()りガラスに見つけた。その年月からか、消えかかっていてはっきりと読み取ることができないけれど、かろうじて、議の文字だけは確認できた。  何が起こるんだろう……。  水の中に墨汁を一滴落としたときのように、漠然と広がっていく不安。  影人間たちが残した赤い文字の画用紙だけでは、当然だけれど心もとない。  ここまで来たんだ。逃げたところで、どうにかなるものでもないじゃない。  胸に手を当てて、深く深く呼吸をした。そして、引き戸の取っ手に手をかけて、力を込めた。引き戸はそうとう立て付けが悪いのか、それとも侵入者を拒んでいるのか、ガタガタとひどい音を立てて抵抗している。  引き戸と格闘してなんとか半分ほど開けると、私は、身体を滑り込ませるようにして中に入った。驚いたことに、そこにはすでにがいた。商店街で出会った影人間ではなく、正真正銘、紛れもない『人間』。  男性四人と、女性一人。  少なくとも顔見知りのようなのに、役所で長時間待たされているかのようにうんざりとした様子で、ときおり短いため息を吐き捨てている。  引き戸はびくともしなかったので半分開いた状態のままにした。そして軽く会釈をして入り口近くの椅子に座り、五人を観察した。  窓枠に腰掛けているのは、すらりと背の高い男性。二十代後半、くらいだろうか。窓の外を睨むように見ている。  『窓枠男性』近くの椅子に座っているのは、五人の中の唯一の女性。頬杖をついている。『窓枠男性』より若そうだ。二十歳になったかならないか……。もしかしたら、私と年齢が近いかもしれない。  『頬杖女性』の向かって右隣に座っているのは、ちょっとふっくらとした中年男性。億劫そうにため息をついているけれど、よく見ると、さりげなく全員を見回し、微笑んでいる。なんだか暖かい目でみんなを見守っているという感じだ。ここにいる人たちは、彼の部下なのだろうか。  『頬杖女性』の向かって左隣には、筋肉質の、いわゆる体育会系の男性が座っている。そういえば、昭和の時代には、モーレツ社員と呼ばれる人たちがいたと聞いたことがある。イメージとしてはピッタリだ。年齢は三十代前半といったところだろうか。  『体育会系男性』近くの壁に寄りかかっているのは、細身の小柄な男性。こちらも三十代前半くらいだろうか。高そうなスーツとネクタイを着用していて、インテリっぽい印象を受ける。黒縁の眼鏡から覗く目は、どことなく私たちを見下しているように感じる冷たさを持っていた。一番苦手なタイプだ。  それにしても、個性の強いメンバーだ。どういう集まりなのだろう。なぜ、誰も話さないのだろう。  会議室の空気が張り詰めている。少しでも気を抜かしたらケガをしてしまいそうな緊張の中で、 今までとは違う不安が私を襲い、目を伏せた。 「全員、揃っているわね。」  突然、会議室の中を、凛とした女性の声が響き渡った。  驚いて顔を上げると、一人の女性が半分開いたままの引き戸に手をかけて立っていた。軽くウェーブのかかったロングヘア。白いスーツを着て、赤いハイヒールを履いている。見とれるほど綺麗でカッコいい。  女性は、靴音を響かせながら中に入り、教室にある教壇のようなところに立つと、にっこり笑った。その笑顔は、なんだか挑戦的で、温かいものではなかった。 「あなたたちは、私の優秀な『社員』たちよ。期待しているわ。今回も、きっと、抜け出してね。健闘を祈っているわ。」 「『社長』も。」  『インテリ男性』が『社長』を見ずに言った。  その言葉に、『社長』を気遣う心は感じられなかった。
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