夜明け

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夜明け

 店の入口のガラス扉にかかったロールカーテンをゆっくり上げていくと、(まぶ)しい朝陽(あさひ)がきらりと射し込んできた。 僕は目を細めて身体中(からだじゅう)にその光を浴びる。 太陽はいつだって平等に皆を照らす。 大切な人を(うしな)った日も。 戦争が終わった翌朝も。 新しい友達が出来た日も。 初めてふたりで迎えた夜明けも。 僕は澄んだ空を見上げた。 『朝の光には、たくさんのエネルギーが詰まってるのよ』 母さんはそう言いながら、部屋のカーテンを勢いよく開けて、ベッドでぐずぐずしている僕を起こす。 『お寝坊さんのセナ。学校に遅れるわよ』 窓辺で振り向いた母さんの栗色の髪が、朝陽に透けて輝いていた。仕事の時はきっちりと結い上げている長い髪も、まだふわっとなびかせたままだ。風下の僕のところに、いつもの母さんの香りが届く。 眩しい光に思わず手をかざして遮ると、すぐに掛け布団が()がされる。 『ほら。スープが冷めちゃうわ。早く顔を洗ってらっしゃい』 くすくす笑いながら、母さんは寝ぼけ(まなこ)の僕を優しく()き立てた。 鍵を解錠して扉を押し開けると、早朝の静かな空気がそっと店内に入り込む。まだひんやりした朝の温度に、僕は母さんのその笑い声を思い出す。 店舗兼自宅のすぐ裏手にある森では、生い茂る緑の合間から小鳥たちの(さえず)りがひっきりなしに聞こえてくる。時折、遠くの山の方からカッコウの鳴き声が、長閑(のどか)に相づちを打つように響く。 あれから、もう20年が過ぎた。
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