21人が本棚に入れています
本棚に追加
「そ、そんなこと言ってなかったじゃん…」
俺が力なくそう言うと「そもそも休憩って、その辺のカフェでも入ろうってことだと思うけどね…」と、俺の狼狽を楽しんでいる様子で、嶺はニヤリと笑った。
そして「ま、ツーショット写真も撮れたし、やめる?」と、スマホ画面をスライドさせて、俺と藤木の写真を見せてきた。
「お!!いつの間に…恋人に見えるじゃん。お前やるな…」
俺が感心して、嶺のスマホから顔をあげると、肩越しに藤木が近づいてくるのが見えた。
「あ…藤木…」
藤木は、少しだけ表情を歪めて「いっちゃん…」と、俺らに距離を詰めてくる。
「どどどどどうしよう…」
嶺は悪戯に笑って「逃げるぞ!」と、俺の手を取って猛ダッシュした。
「え、ちょ…」
「いっちゃん!?」と、目を見開いて俺に向かって手を伸ばす藤木の姿を後目に、俺は嶺に着いて行く。
何、このシチュエーション…
他の男とデートしていた彼女に嫉妬した彼氏が、彼女を略奪するみたいな少女漫画的展開…
ただ一つ違うのは、嶺は容赦なく全力疾走し、俺もそれに負けじと着いて行ったこと。陸上競技でもやっていない限り、嶺の全力疾走にここまでついてこられる女の子はそういないだろう。
俺たちは、地下街の雑踏に紛れた。
「さすがに…ここまで追いかけては…こねーだろ…」
息を切らした嶺が苦しそうに顔を歪めてそう言った。
俺も「きっつ…」と、息を荒げて肩を上下させた。
「ここ…俺、胸キュンしなきゃいけないシーン?」
「バーカ…」
地下街を往来する人たちからの異様な視線を感じながら、俺たちはそんなこと気にも留めずケラケラと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!