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「いや、あの…嶺が…」
「嶺くんがどうしたの?」
訝しげに見つめられ、俺は口ごもる。
楓を目の前にして、俺は急に怖気付いた。
藤木と楽しそうに掃除していた楓の笑顔、そして、今俺に向けられているこの視線。
ここに来る前の威勢が嘘のように消えていく。
今、俺が何を言っても楓には届かないだろう。それに、藤木が本当に遊び人かどうかなんてわからないし、無責任なことは言えない。
「いや、ゴメン、今日はやっぱりいいわ…」
「えー…用事あったんじゃないの?」
「ううん、また今度にする。ほら、戻らないと」
俺は「じゃ、また」と手をあげた。
楓は「…うん」と、スッキリしないといった様子のまま店に入って行った。
俺はそれを見送ると、店内にいた藤木は笑顔で楓を出迎えて、さらには外に立ち尽くしている俺にも爽やかな笑顔を見せた。
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