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しばらくしてから、お姉さんが「サークルの先輩から呼び出された」と、スマホを見ながら一芝居打つ。そして「ゴメンね、イチちゃん。未成年は連れていけないところなんだ…藤木が送ってくれるって。ね、藤木、いいよね?」と、お姉さんは藤木に視線を送る。
藤木は「もちろん」と、戦利品の猫のぬいぐるみをくれた。
それからお姉さんは、他のメンバーを引き連れて「イチちゃんまたね~」と、素早く去って行った。
それはあっという間のことだった。自分でそうしてもらうように頼んだにもかかわらず、藤木と二人きりになり、俺は急に心細くなる。
藤木は、二人きりになったとたんに当たり前のように手を繋いできた。俺たちは、たわいもない話をしながらウィンドウショッピングをする。
そして「いっちゃん、ちょっと…休憩しようか…」と、俺を見つめて優しく微笑んだ。
―――嘘だろ!?休憩って…手が早いとは聞いていたけど、いくらなんでも早すぎんだろ!!
俺は「ち…ちょっとお手洗いに…」と、慌てて藤木の手から離れて、トイレ表示のある一角の影に姿を隠した。そして直ぐに、近くで待機していると言ってくれた嶺に『二人きりになった。ホテル連れ込まれそう…助けて』とメッセージを送った。
すると、そのメッセージを送って、ものの一分で「半べそかいて可愛いないっちゃん」と、ニヤケ顔をした嶺が現れた。
嶺は黒いキャップを深くかぶって、いつもはしていない黒縁のメガネをしている。
「嶺…ヤバイって!ホテル連れ込まれたら女装バレる!だから終わりにしよう?…俺、ここでばっくれる!」
俺は、必死に嶺に訴えた。
嶺は楽しそうに「大地~…ホテル連れ込まれるところの証拠写真が欲しかったんじゃないの?」と、クククと笑った。
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