ジャック・オー・ランタンの欺き

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
街に並ぶかぼちゃ。 不格好なものから丁寧なものまで。 僕はいつの間にかたれていた汗を手で拭い、それを玄関に飾った。 「……ふぅ…」 日が暮れ始めている。 そろそろライトアップしても良い頃だろうか。 僕はかぼちゃに付けていたライトのスイッチを押した。 ピカ… まあまあ綺麗に彫れた穴から光が漏れる。 「上出来だよな」 そっとかぼちゃをなぞった。 優しい光が僕の皮膚を包み込む。 「トリックオアトリート……!」 誰かが僕のシャツをそっと掴んだ。 慌てて後ろを振り向くとドラキュラに扮した女の子がにこりと笑っていた。 「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ…ッ!」 僕は「ちょっとまってね」と言いマシュマロを彼女に渡す。 「えへへ…お兄さんありがと!」 彼女は大事そうにマシュマロを抱えそのまま走っていった。 僕はその様子をそっと見送りながらさきほどのマシュマロを口に放り込んだ。 程よい甘さが口に広がる。 「………甘いな…」 ふわふわとした甘みはあの人のことを思い出させた。 長い髪をなびかせどこかへ去って行ってしまった彼女のことを。 「……くん」 彼女の声が聞こえてきた。 それはうしろから聞こえてきたようで。 あのかぼちゃは僕の方を見て笑っていた。 「今年もやりやがったな…ジャック・オー・ランタン…」 かぼちゃはにやりとわらった。 これだからやめれらない。 ことしもまた彼女の声が聞こえた。 ありがとな、かぼちゃ。 完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!