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第13話 2.0
試合が終わるとすぐに
「出待ちに行くよ!」
莉子が言う。
出待ちって…アイドルのコンサートじゃないんだから…
「少なくとも、あっちの女の子達よりはこっちの方が有利なんだから!元マネのコネを使って近づこう。」
莉子…なんかおかしなこと言ってるよ?
そう思いながらも、体育館の出口に向かった。
しばらく待っていたら試合を終えた高校生たちがぞろぞろ出て来た。
遅れてさっき見かけた子達も来たようだったけれど、少し遠巻きに見ているだけだった。
顧問の司先生を見つけて声をかける。
「先生、ご無沙汰してます。」
「平野、来るんだったら一言声かけてくれれば良かったのに!」
「スコア書かせようと思ったんでしょ?」
「なんだ、バレたか。」
司先生が笑った。
「ずっと見てた?」
「はい。」
「じゃあ北条見たか?あいつ上手いだろ?なんでうちの高校来たのか不思議なんだよな。」
「そうなんですか?」
「あいつ頭もいいし、もっとバスケが強い高校に行けたはずなのに。」
先生と話していると、わたしのことがわからない部員たちが、ちらりとこちらを見ながら通り過ぎていく。
その中で、一人だけ、颯太が立ち止まった。
「オレの名前大きな声で呼んでたの誰ですか?」
少しムッとしているように見えた。
莉子が颯太のそんな様子を、気にも留めずに言った。
「君が颯太くん?」
「…はい。」
「どっかのアイドルグループにいそう!」
颯太が困ったような顔をする。
莉子はしばらく颯太の顔を見ていたが、なぜか少し後ろに下がった。
そうしてまた近くまで戻ってきて、颯太の顔をじっと見てから言った。
「颯太くん、視力いくつ?」
「2.0です。」
「やっぱり。わたしも2.0なんだよね。」
そう言うと莉子は笑った。
「優衣がバイトしてる店の、向かいの塾に行ってるでしょ?わたしも優衣と同じとこでバイトしてるんだよ。でもわたしのことはわかんなかったんだ。」
「すみません…勘弁してください。」
颯太がさっきとはうってかわって、下手に出ている。
莉子は意味深な笑みを浮かべると
「なーんだ、そっか。」
と言った。
「さっきから何の話してるの?」
わたしが聞くと、
「颯太くんに聞いて。」
と言って教えてくれない。
「莉子と知り合い、じゃあないんだよね?」
颯太に聞いても
「まぁ…そうです。」
歯切れの悪い返事が返ってきただけだった。
「北条行くぞー。」
司先生に呼ばれ、颯太は軽く頭をさげると、みんなのところに行こうとしたので声をかけた。
「颯太、めちゃくちゃかっこ良かった。」
「優衣さんが見てたから。」
颯太はそう言って、少しだけ微笑んですぐに行ってしまった。
「颯太くんって、近くで見るともっとかっこいいね!」
莉子が後姿を見ながら言った。
莉子の言った通り、2階席にいたのに、気がついていたんだ。
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