第1話 懐かしい制服

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第1話 懐かしい制服

大学2年の夏休み、友達の桂木莉子が20歳になったお祝いに、人気のお店を予約して、2人で甘めのワインを飲んだ。 「優衣、お酒強くない?」 「そうかなぁ?莉子が弱すぎるんだよ。」 「わたしやっぱりダメだわ。甘くても飲めない…」 莉子はワインを早々に終了すると、食後のデザートを待ち遠しそうにした。 「20歳になったんだから、なんか、どきどきするようなこと起こらないかなーっ。」 莉子が言う。 「そんな簡単に起こらないよ。」 「優衣、そんな冷めた事を…」 「だってわたし5月に20歳になったけど、そんなこと起こってないし。」 「まだわかんないじゃん!合コン行こうよ!友達がセッティングしてくれるって言ってたから。」 「そういうのパス。」 「えーなんで?マッチングアプリの方がいい?」 「そういうのも…苦手。自然に出会いたい。」 「またそんなこと言って!自分からアピールしないと出会いなんてないって!」 店の前で別れてから、家に帰るためにバス停へ向かっていると、懐かしい制服が前から歩いてきた。 紺色のブレザーにストライプのネクタイ。母校の皐月高校の制服。 駅前は予備校がいっぱいあるから、夜でも高校生をよく見かける。 皐月高校の制服を着た高校生たちとすれ違った時、その中の1人が声をかけてきた。 「平野先輩?」 振り向いて、声をかけてきた男子を見ると、確かに見覚えのある顔だった。 名前はなんて言ったっけ… 「平野先輩が引退直前にバスケ部に入った河野です。」 そうだ、河野くんだ。 「わたしのことよくわかったね!」 高校3年のGW前、受験のため、わたしは男子バスケ部のマネージャーを引退した。 だから高一で部活に入ってきた子達とは、ほんの少ししか関わりがなかったので、向こうが覚えていてくれたのは嬉しい。 「司先生とか、フネ先生とか元気?」 「はい。平野先輩は大学生っぽいですね。」 「ホントに大学生だから。」 「DM交換してくださいよ。」 「いいよ。」 わたしがちょっと操作に戸惑っていると、 「いいですか?」 そう言って、さすが現役高校生、わたしのスマホも簡単に操作してくれた。 「じゃあ、連絡します。」 「うん、バイバイ。」 マネをやっていた時、男バスのメンバーとは全員LIMEの交換をしていた。 けれども、当時高一だった子と連絡先を交換するのは初めてだった。 懐かしいな。 そんなことを思いながらバスに乗った。
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