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「つまり、なにか心残りでもあったのか?」
いつのまにか僕の席のそばに立っていたヒロノが、いかにも涼しげにそういった。
「何の話をしているんだ?」
「別に。分からないならいい」
ふと思い出した。
「ちょっと待ってくれ」
「あん?」
「ヒロノはなんでここにいるんだ? 病気は治ったのか?」
そう、彼はずっと入院していたのだ。
高校に入学してクラスで顔を合わせたあと、その春からいきなり来なくなった。
「治ってはいないんじゃないかな。気づけば、ここへ……」
えらく他人ごとのような口ぶりだ。
「そっか」
答えのなさそうな問を重ねるのを止めた。
そんなふうにして深入りするのを避けて、案外物わかりのよいふりをするのは、僕の悪い癖であるのかもしれないけれど。
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