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「……!」
離縁。
その言葉に、響きに、頭から冷水をかけられたような心地になる。
呆然とする梔子に、鞠花が追い打ちをかけるように言い捨てた。
「当然のことでしょう? お前に篁さまの妻なんて、務まるわけがないんだから。それともお前、あの方に恥をかかせたいの? このままあの方の妻として暮らしていけるなんて考えているのなら、甘いわ。お前の考えは甘すぎるのよ」
――わかりました、と。
そう口にしなければならないのは、わかっていた。
鞠花の命令に頷いて、そして、行き場のなくなった梔子をまた八條家においてほしいと、そう許しを請わなければならないと。
だって、そうだ。
(鞠花さまの言っていることは、全部、正しい……。私は、紅月さまの評判を悪くして……ご迷惑にしかなっていない……)
紅月のそばにいたい。
これから先も、ここにいたい。
それは、梔子の身勝手なわがままにすぎないのだ。
(紅月さまのことを考えるなら、私は……、私は……!)
何も言えずにいる梔子に、ついに業を煮やしたらしい。
鞠花は庭に通じる障子戸に手をかけると、怒りをぶつけるように勢いよく開け放った。
飛沫を立てて降りしきる雨の下へと、思いきり突き飛ばされる。
瞬く間に泥と雨水で全身がずぶ濡れになった。
「思い上がるのも大概になさい!」
般若のような形相が目の前にあった。
鞠花は自らも庭に飛び出して雨に濡れていた。
梔子の前髪を無理やり引っ張り上げ、何度も頰を打ってくる。
「何度も言っているでしょう!? 篁さまはお前には分不相応なのよ! 今はお前のことをお気に召されていても、お前は退屈で不器量な、何の値打ちもない女なのだもの! 遠くないうちにあの方はお前の本性を見抜いて、愛想を尽かすわ。そうしたら、お困りになるのは篁さまなんだから――」
「――誰が、何に困るというのかな?」
その声は、滝のように地を叩く雨の中でも、驚くほどよく響いた。
弾かれたように振り返った鞠花が、目を見開いて縁側を凝視する。
雨霧の向こう。
そこに立っていたのは、梔子がずっと帰りを待ち望んでいた人――紅月に違いなかった。
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