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執事を下がらせ、小物入れ箱を開ける。
「これで、自害でもするしかないのかしら?」
その中には一本の短剣が収まっていた。
亡き父が陛下より賜ったという、形見だ。
「……はぁーっ」
しばらく見つめたあと、またため息をついて蓋を閉めた。
婚約の決まった男は三男で、家名を継いで復興させてくれるのだという。
自分が死ねばこの家は途絶えるのだ。
そんなことはできないのはわかっている。
「お父様、お母様。
……どうして、帰ってきてくださらないの」
膝を抱えた彼女の、頬の上を真珠が一粒、転がり落ちていった。
両親が揃って航海に出たのは五年前。
新天地に赴き、香辛料や珍しいものの買い付けるためだった。
しかし予定の一年が過ぎても帰ってこないどころか、音信不通。
海賊に襲われただの、嵐に遭って難破しただのという噂はあったが、とうとう真相はわからなかった。
突然、両親を失った彼女は必死に家を守ろうとしたが、まだ十三の小娘。
騙されたりして財産はあっというまになくなった。
二年前からは執事として残ってくれた彼と、ふたりきりの生活をしている。
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