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「近う、寄れ」
「へっ!?」
思わず、変な声が出る。
貴族の女性に小汚い自分など、近づけるはずがない。
「遠慮せずに早う、寄れ」
「……」
有無を言わせぬ声に渋々、草を踏み分けて傍に寄った。
「突っ立ってないで座ればよかろう」
よかろう、などと言われても、自分はそこへ上がることすら許されない身分なのだ。
まごまごとしていたら、扇子がダン、と縁側を叩いた。
「座れと申しておる」
「……。
失礼、いたします」
これ以上、従わねばなにが起こるかわからない恐怖から、男はこわごわ扇子の先が指す場所へ腰を下ろした。
「よろしい。
……酒が、きたな」
女房がお膳を運んできて、男と女の前へ置く。
「まあ、一献」
と、言いつつも、誰がお酌をしてくれるわけでもない。
もっとも、されたところで恐れ多すぎて飲めないだろうが。
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