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「いま、迎えに行く」
今日も男は歩き続ける。
この世を悲観して海に身を投げただのという話も聞いた。
しかし彼女はそんな女ではない。
きっと、まだどこかで生きている。
「いま、迎えに行く、から」
がくり、と男の膝が落ちる。
立ち上がろうとするが、もうそんな力もない。
それでも手を伸ばし、じり、じり、と前へと進む。
「むか、えに」
ついに、男の動きが止まった。
もう、僅かにしか見えない目で、遥か先を見つめた。
大空を風が吹き、近くの木々からひらひらと木の葉が舞う。
まるで、着物の裾のように。
「……ああ。
自由に、なったんだな」
なにかを求めるように上がった男の手が、パタリと落ちた。
【終】
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