幸せな食卓

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─ お父さんですよ ─ お母さんですよ 玄関の引き戸の磨りガラスに映る 二つの人影は、中に向かって大きな声で 呼んでいますが、 坊やはまだ寝んねしているので その声には気付きません。 ─ お父さんやないんかえ? ─ お母さんやないんかえ? 影は扉の方を向いたり お互いを向き合ったりしながら、 あれこれと相談もしているのです。 ─ パパですよ ─ ママですよ あんまりに大きな声なものですから、 坊やより先に 坊やのお隣で用心棒の様に うずくまって動かなかった 黒猫ロデムが目を開けて、ニューッと一度、前足を突っ張り、お尻を高く突き上げて伸びをしたのです。 ─ 坊や、開けておくれ ─ 僕ちゃん、開けてちょうだいな ─ 坊ややないんかえ? ─ 僕ちゃんやないんかえ? ロデムは初め何事かと言う顔で、玄関をじっと眺めていたのです。 ロデムは背中の毛を逆立てて、随分と警戒しているように見えます。 ─ 早く開けておくれよ、お腹が空いて死んでしまうじゃあないか ─ 早く開けてちょうだい、我慢ができずにお漏らししてしまうわ 表の二つの影は次第にぼんやりとしてきている様で、二つの影の境界はさっきより随分霞んでいます。
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