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─ お父さんですよ
─ お母さんですよ
玄関の引き戸の磨りガラスに映る
二つの人影は、中に向かって大きな声で
呼んでいますが、
坊やはまだ寝んねしているので
その声には気付きません。
─ お父さんやないんかえ?
─ お母さんやないんかえ?
影は扉の方を向いたり
お互いを向き合ったりしながら、
あれこれと相談もしているのです。
─ パパですよ
─ ママですよ
あんまりに大きな声なものですから、
坊やより先に
坊やのお隣で用心棒の様に
うずくまって動かなかった
黒猫ロデムが目を開けて、ニューッと一度、前足を突っ張り、お尻を高く突き上げて伸びをしたのです。
─ 坊や、開けておくれ
─ 僕ちゃん、開けてちょうだいな
─ 坊ややないんかえ?
─ 僕ちゃんやないんかえ?
ロデムは初め何事かと言う顔で、玄関をじっと眺めていたのです。
ロデムは背中の毛を逆立てて、随分と警戒しているように見えます。
─ 早く開けておくれよ、お腹が空いて死んでしまうじゃあないか
─ 早く開けてちょうだい、我慢ができずにお漏らししてしまうわ
表の二つの影は次第にぼんやりとしてきている様で、二つの影の境界はさっきより随分霞んでいます。
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