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ロデムは一層毛を逆立てて、体を大きく見せて威嚇の態勢を取りながら、歯を剥いてシャーっと低く息を吹きます。
坊やは上半身だけムクっと起こして、それでもまだぼんやりした顔をしながら、玄関を見つめます。
─ガタッ、ガタッ、ガタガタッ、ガズン、ズルズルズル
遂に引き戸が動きました。
扉の開いた向こう側には、金と銀の頭を持ち、太いしっぽを生き物のようにグニャグニャとくねらせて、大きな鼠が立っているのです。
─ 坊や、どこだい?
─ 僕ちゃん、どこにいるの?
─ 斯くなる上はのう
─ 猫など噛み殺してくれるぞのう
暗い所は慣れているはずの鼠は、人間に長く化けすぎていたせいなのでしょうか、このところ夜に目が見えなくなってしまっていました。
─ 見えぬわえ
─ 暗いわえ
手探りで土間を歩き回り、上框に躓きながら、やっとのことで玄関を上がってくるのです。
坊やはもう、目と鼻の先です。
─ 気配がせぬわえ
─ せぬわえ
─ 確かに臭いはあるんやにのう
─ あるんやにのう
─ 口惜しいことよ
─ 早よう、早よう
ミシミシと廊下の床板を踏み鳴らしながら
大鼠は奥へ行ったり、戻ってきたりしますが、
坊やにもロデムにも一向にぶつかる気配がありません。
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