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眼鏡の向こうで目尻を下げ、ふにゃんと気の抜ける顔で課長が笑う。
休みの日だからか下ろされた髪、洗いざらしのシャツがいつもよりも彼を若く見せていた。
「えっと……。
寝ぼけてました、すみません」
曖昧に笑って答える。
いい感じに温かくて、抱き心地もよくて、おかげでぐっすり眠れた、なんてことは口が裂けても言えない。
「昨日、さ」
言いづらそうに課長が、上目遣いで私をうかがう。
「瀬谷がまだ残ってると聞いて、会社に戻ったんだ。
とか言ったら、どうする?」
ちらっとまた、眼鏡の奥から課長の視線が私に向かう。
私がいたから戻ってきた?
古暮課長はいったい、なにが言いたいんだろう。
「……それは、戻ってくる必要はなかった、ということでしょうか」
「まあ、そうだな」
私がいなかったら、課長は戻ってこなかった?
ますます意味がわからない。
「俺、実は一度、離婚してて」
「はぁ」
話が急に変わり、しかもセンシティブな話題になったが、大丈夫なんだろうか。
そして古暮課長がバツイチだなんて初めて知った。
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