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それに対してなにか思ったかといえば、そうなんだ、くらいだ。
「元妻にこういう朝食を出したら、『女子力の違いを見せつけてるの?嫌味!?』って、キレられた」
はぁーっと課長の口から陰鬱なため息が落ちていく。
それでさっき、私が喜んでいたから、課長も喜んだのか。
「まあ、他にもいろいろあって妻とは別れたんだが。
でも俺、料理とか掃除とか好きでやってるだけで、別に嫌味でもなんでもないんだけどな……。
むしろ、させてもらえて嬉しいっていうか」
また課長の口からため息が落ちていく。
「俺に、瀬谷のために料理や掃除をさせてくれないか」
ナイフとフォークを置いた課長が私を見つめる。
その真剣な目に、心臓がどくん、どくんと自己主張を繰り返した。
「……なんですか、それ。
まるで安いプロポーズみたいですよ」
茶化すように言ったものの、私の声は震えている。
そんなの、あるはずがない。
しかし課長は真っ直ぐに私を見つめたまま、視線を逸らさない。
「安いプロポーズ、か。
確かにな。
俺は一度、結婚で失敗している。
また結婚するのは怖い」
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