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最初は何人かいた残業の人も、時間が経つにつれひとり、ふたりと減っていく。
気づいたときにはひとりになっていた。
……終電までには帰りたい。
その一心でひたすら、頭と手を動かす。
「まだいたのか」
声をかけられて顔を上げると、今日は出張先から直帰のはずの古暮課長が立っていた。
「瀬谷が残業だなんて、珍しいな」
「私だってたまにはありますよー」
スーツケースをごろごろ引きずりながら、課長は自分の席に向かっていく。
私は、課内ではどちらかというとできる社員として認識されていた。
さらに長い黒髪をきっちりひとつ結び、白シャツに黒パンツスーツで、化粧も薄いと、女子としての自分磨きに関心がない。
おかげで男性社員からは恋愛対象から除外され、遅くまで残っていたところで誰も気にしていなかった。
「古暮課長こそ、どうしたんですか?」
自分の席に着いた彼は、こんな時間だというのにパソコンを立ち上げている。
「あー、ちょっとやっておきたい仕事を思い出したんだ。
ほら、土日は出勤禁止だし」
ははっと小さく課長の口から笑いが落ちる。
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