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「あなたは公爵家の一員として、養女として迎えられて公爵令嬢となって結婚するのが幸せだと思わないのね? あなたを蔑んだ子爵家の者達を見返すこともしたくない、と? あなたを元平民だと嘲笑っていたこの国の貴族家の令嬢達を見返したくない、と?」
再度意思を確認される。
私が駆け落ちされた、ということを私が話す前から知っていたのだろうことは、蔑んだという表現で知れる。
学園で虐められて萎縮していたことも調査済み、ということね。
隣国とはいえさすがは公爵家ということか。情報は武器になる、と学園に通っていた頃、よく聞いたものね。
「公爵令嬢としての結婚は公爵家のための結婚ということで、両親の尻拭いだと思いますので幸せな結婚生活だとは思いません。学園時代に見下してきた方々を見返す気も、子爵家を見返す気も有りません。きっと何処かで帳尻が合うと思っていますから」
人を見下す者はいつか見下されるかもしれない、なんて思わないのだと思う。でも。おそらく何処かで帳尻が合うように出来ていると思う。私が巡り巡って駆け落ちされたように。
帳尻が見下されることなのか、それとも別の何かのことなのか、それは予測出来ないし、その時になっても帳尻合わせだとも気づかないかもしれないけれど。
「そう。……そうなのね。分かりました。あなたのことは忘れます。だからあなたが思う幸せを紡ぎなさい」
きっとそれは、最初で最後の祖母としての言葉。
私は「はい」 とその約束を果たすことを自分に誓った。
「もう会うことはないでしょう。元気でね」
「ご婦人も一日でも長く元気でいて下さい」
身体に障る、と侍女が言っていた。
護衛も気遣わしげに動いている。
年齢的にもご年配ということを考えれば何かの病気である可能性もある。
二度と会わないだろうけれど、それでも一日でも長く生きて欲しい、と我ながら随分とエゴイストだと思うけれど。
多分、甘やかされただろうし可愛いがられただろう実の母ならそんな我儘を平然と口にするんじゃないか、と思う。
「あらあら。そんな自分勝手な我儘を口にする所は本当にそっくりね」
ご婦人はコロコロと声を上げて笑いながらそんなことを言う。やはり、実の母なら言いそうな事だったのだろう。
「ではご婦人にもそっくりなのでしょう」
実の母にそっくりならその母であるあなたにも似てる事でしょう、と意味を込めると、ふふふと笑って「そうね」 と楽しそうに肯定した。
……どうやら甘やかされた末娘の母の母である祖母は、若かりし頃お転婆だったのかもしれない。ふと、そう思った。
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