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「えっ、ど、どうしたの⁉︎」
執事を見れば執事は目を逸らす。
「ミルヒ、済まなかった」
「ええと、お父さん?」
あ、しまった。動揺してお父さんって呼んじゃった。お父様だっけ。
「ミルヒ、ごめんなさいね」
「ええと、お母さんまで、どうしたの?」
ついついお母さんと呼んでしまう。
「ミルヒがこの婚約をそんなに重荷だと思っていなかったんだ」
父の暗い表情と弱々しい言葉で、ああ、と理解する。
「重荷というか。初対面からあの調子の婚約者だったので結婚しても上手くいくとは思っていなかったので」
父と母は更に落ち込む。ハンネは苦笑しトリルはキョトンとした顔のまま、俯く父と母を見ている。
「そこまで嫌だったのなら、決して受け入れなかったのに……」
母がそう言う。
「そう言われても、爵位が上の相手では仕方なかったですよね」
断れるわけがなかったのでは? と返せば、父がう、うむ……と口籠る。
「抑々、この婚約、私の実の両親のことをあの子爵が知っている、と匂わせていたことにお父様が引っかかったわけですけど。あの子爵はその辺のことを何か言ってました?」
私の質問に、父が顔を上げて驚いた、と私をジッと見る。
「ミルヒに直接話す、と言っていたが……」
「は? 聞いてませんが」
「あんの、クソハゲ! 大嘘つきヤロウ!」
父はどうやら子爵から、直接私に実の両親について話すと言われたらしく、私の実の両親について何も聞いてない様子。而も騙されたと分かってキレた。
……うん。確かに綺麗なツルツル頭だったからハゲは正解だけど、抑々私は、あんな見え透いた嘘を匂わせられてうっかり頷いた父にも問題がある、と思っているので、どっちもどっちだと思っている。
「だから、あんな子爵が私の実の両親のことを知っているとは思えないって言ったのに」
私の呆れた声に父が身を竦ませる。
「ミルヒ、そこまででお願いよ。私達は、あなたの実の親を探すのをずっと諦めていないのよ」
母に諭されて口を噤む。
私が実の両親と会ったとしても実の両親の元に帰るつもりは無いのに、何故探し続けるのか分からない。
ただ、私のため、と言われてしまえば口を噤むしかないのだ。
「前から思っていたけど。抑々、なんでミルヒお姉ちゃんの本当の両親を探してるの?」
ハンネは普段、私をミルヒって呼ぶくせに、ここぞと言う時には姉呼びをして、私に疎外感を抱かせない。
押し黙ってしまった私達を、何度も見ているハンネだからなのか、あっさりと私が気にしていることを尋ねた。
私も知りたくて思わず父と母を見れば、二人は困ったように顔を見合わせている。
「えっ、もしかしてミルヒの本当の親に、ミルヒを返します、とか言いたいってこと?」
ハンネのその質問に、私の方が身体を震わせる。それこそが、私が恐れていることだから。
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