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「返す? そんなわけないでしょ! もしもミルヒが高位貴族の庶子だったとして、返せ、と言われたって返さないし、いくら積まれても金に困ってないから要らないし、もしも商会を潰されたら爵位を返上して他国にでも行くわよ」
母があっさりと答えをくれる。
「じゃあなんで……」
そこまで私の実の両親に拘るの? という言葉が出なくて、それしか尋ねられない。
「決まっているじゃないの! なんでミルヒを育てられなかったのか、知るためよ!」
母が断言する。
……私を育てられなかった理由?
「母さんと話していたんだ。もし、ミルヒの実の両親が見つかって、金が無くて育てられなかったって言うなら、いくらか援助しようかって」
父も更に説明する。
「援助って……お父さんもお母さんもお人好し過ぎない? 拾って育ててもらった私が言うのもなんだけど」
両親が長い間、私の実の両親を探している理由がこんな時に分かって、何とも言えない気持ちになる。……いや、こんな時だから、分かったのかもしれない。
結婚が無くなって肩の荷が降りた状況だから私も聞く余裕が出来た。
……でも、理由を聞かないまま結婚していたら、私はずっとモヤモヤした気持ちのままだったかもしれない。ふとそう思えば、結婚が破談になったことも悪いことじゃないと思う。
「そうは言うが……俺達はミルヒを育てていい子に育ってくれたことが嬉しい。ミルヒを産んでくれた親には産んだことを感謝して、それくらいはいいかな、と」
……商人のクセにとんだお人好しだ。
でも、私を実の両親に返す、なんて考えていなくて良かった。返さないって思われてて良かった。
「えっ、何を言ってんの! ミルヒを捨てた親に援助なんて要らないから! こんな優しいお姉ちゃんを捨てるとか有り得ないから!」
ハンネが唇を尖らせて抗議する。
両親の気持ちも嬉しいし、ハンネの気持ちも嬉しい。大事にされてるって思える。
それなら私も思っていることを伝えよう。
「お父さんとお母さんが私の実の両親を探す理由が分からなかったから言わなかったんだけど。というか、もしかして見つかったらそっちに帰れとか言われるかもしれないって思ってて、言えなかったんだけど」
「そう思わせてたか! 済まん! そんなつもりは無いぞ」
私の気持ちを聞いて慌てる父に、うん、と頷く。
「それは分かったからいいよ。だからね? 言わせてもらうけど。私は別に実の両親に会いたいとは思ってないよ。まぁ見つかったら会ってもいいけど、見つかって欲しいとも思ってない。もし、見つかったとして。援助はお父さんとお母さんの好きにすればいいけど、限度を決めて一括で支払って、そんで私はお父さんとお母さんの子ですってことだけ伝えて、それでもうお終いでいいと思ってる」
ブルクテン商会を営むブルクテン男爵夫妻が私の両親だ、と実の両親に会ったら言いたいとは思う。でも見つからないならそれでもいい。
それが私の本心だ。
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