当日でした

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「金で爵位を買った癖に」  これが、我が家に対する貴族社会の評価だと私は思う。  そして、それは何も間違っていない。  我が家……商会で名を馳せたブルクテン家は没落寸前で爵位を売りに出していたとある男爵家から爵位を買って新興貴族の仲間入りを果たした男爵家。  商会で名を馳せている以上、領地が無くても問題はないし、国内にとある商品が流通していてその商品は我が家の代名詞となるほど、売れている。その商品に定評があって貴族も平民も挙って買う。貴族向けには高価で平民向けには安価な……石鹸。  切っ掛けは些細なことだった。それまで主流だった作り方に何となくオイルを変えてみたら、手荒れが減ったので試しに家族や使用人に使ってもらい、好評だったので父が販売してみた。  最初は見向きもされなかったのでオマケとして使ってもらうよう数を限定して配り、そこから徐々に浸透して、今ではブルクテン商会の石鹸は貴族も平民も挙って買う品になった。  その際、貴族からの信用を得るために爵位を金で買うか、国王陛下から爵位を授かるか、貴族家へ嫁入りするか、の三択で。簡単に授爵はしてもらえるわけがないので、実質二択。  そして、私か妹が貴族家へ嫁入りするにも、男爵家や子爵家の年頃の嫡男は既に相手が居る家が殆どで。残るは、平民だけど商人なので情報には煩い父の耳にも入らなくても分かる程、貴族であることをひけらかしたり、傲慢だったりするような嫡男か、当主の後妻くらいしかなくて。  結果的に父は金で没落寸前の男爵家の爵位を買った。  別に貴族に売らなくても良かったのに、売れと圧力を掛けてきたのは貴族側。かと言って平民のままでは足元を見てタダ同然に石鹸を持って行こうとするから、自衛として貴族になっただけなのに。  言うに事欠いて爵位を金で買った、と嫌味しか言わない。つくづく理不尽な世界だと思う。  もう貴族の世界から抜けて、国を捨ててもいいんじゃない?  と、父に言ったことは、ある。  でも父は首を縦に振らない。  理由の一つ目が、母の身体が弱くてあまり遠出が出来ないからだと思う。  二つ目は妹のハンネが幼馴染のレックと恋人同士で結婚を誓い合っているから。  三つ目は三人目として生まれた弟のトリル。トリルを生んだ母は、難産だったために身体が弱くなった。でも生まれたトリルは元気いっぱい。それはいいことだけど、十三歳のハンネとレックよりも十歳下の三歳であるトリルの面倒を見ながら他国で地盤を固めて商人としてやっていく自信はない、と父が言っていた。  私も面倒を見るし手伝うとは言ったけれど、母のことやハンネのことを考えると決断し難いのだろう。  理由の四つ目は、従業員達。父が商会を立ち上げた時から居るメンバーが二人。それから数年の間に今の人数を雇った、苦楽を共にした従業員達のことを考えれば、他国には行けないという。それはそうだけど。彼等を連れて行くのも難しいのも分かる。
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