当日でした

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 そして多分、聞いたことはないけれど、理由の五つ目にして一番気にしているのが、私……つまり長女という立ち位置に入れている、ミルヒのことだと思う。  私、ミルヒは、長女として両親と妹と弟から家族にしてもらっているけれど、本当は孤児。  正確に言えば父が母と結婚して直ぐの頃に家の前でバスケットの中で泣き声を上げていた、らしい。孤児院にでも連れて行けばいいのに、お人好しの両親は可哀想に思って我が子として育ててくれた。  ハンネが生まれる二年前の寒い日の朝だったとか。私が七歳になった時に、両親は真実を話してくれた。まぁハンネが母に似ているのに、私はどちらにも似ていないので、おかしいなぁとは思っていたので、聞いた時ショックだったけれど納得もした。  変わらずに自分達の子だと言う両親の愛情を疑ったことがあったら、家出をしていたかもしれないし、その後、何かあったら自分は父と母の子じゃないから、なんて卑屈なことを言っていたかもしれないけれど、ハンネと比べられることもなければ、叱る時は叱るけれど甘やかす時は甘やかす両親の愛情を疑うことなんて、出来なかった。  だから両親には感謝してるし、ハンネも可愛いと思ってる。トリルも、可愛い。ハンネにも私が孤児だと話してあるけど、でもハンネは私のお姉ちゃんでしょ、で終わった。  さておき。  多分両親は、私を捨てた本当の両親が、いつか私を引き取りたいと申し出て来るかもしれないって言うかもしれない、とか。引き取らなくても会いたいって言ってくるかもしれない、とか。そんなことを考えているようで。  会うのは兎も角、今更本当の両親がしゃしゃり出て来て引き取りたいとか言われても、誰が行くか。って話なんだけどね。  私の両親はブルクテン商会を営む男爵夫妻でしかあり得ない。  だからそこは気にしないで欲しいけれど、母のことやらハンネとトリルのことやら従業員のことやら言われると、まぁ他国へ行くのは現実的ではないよね、と納得したのだけど。  ーー納得することと、傷つくことは別で。  確かに金で爵位を買った。  それは事実だけど。  平民のままだと搾取されるだけで従業員を守れないから、という大義が此方には有る。  まぁ生粋のお貴族様からすれば、数年前まで平民だったくせに、と言いたい所なんだろうけど。  頭では異端が入り込んできたと思われていることを理解はしてる。理解していても、理不尽なことを言われ続けるやるせなさや辛さは、消えるわけじゃなくて。  正直、貴族といっても生粋の貴族じゃない私が、一年とはいえ学園に通うことの意味があるのか、と思いながら過ごして。  陰口どころか集団であれこれ言われる日々を無心になることを心がけつつ……無心になれなかったけれど……卒業式を迎えた時は、これでやっと嫌な思いから抜け出せるって、安心した。  ーーのに。  本当の嫌な思い出は此処から始まるなんて、思ってもみなかった。
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