望まないから得る幸せ

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 あのご婦人の所からの帰り道、父から色々と謝られたり諭されたりした。  実の父と話した内容を黙っていたこと。  私が駆け落ちされたことと実の両親が駆け落ちしたことの事実を全く別々に捉えていたこと。  けれど話を聞いた私が巡り巡ってこうなったのだ、と思ったことに衝撃を受けていること。  だから尻拭いなんて思っているとは思わなかったし、尻拭いをさせようなんて思っていなかったこと。  恩返しなんて考えなくてよいこと。  公爵令嬢として生きていく道を閉ざして良かったのか悩むこと。 「私の幸せは家族一緒に居られることだから、それでいいと思うの。ダメ?」  家族一緒の一言に陥落した父は、それ以上何も言わなかった。  嘘を言ったつもりは無い。  恋をしていない相手でも友情か家族のような愛情を築けたらいい、と思っていた婚約者。  でも最初から向こうは私が気に入らないし、何らかの関係を築くつもりすらなかった人。そんな人に対する情なんて芽生える程、私は婚約者のことを知らなければ聖人でもなくて。  だから駆け落ちされても正直なところ、ふぅんそっか、という気持ちでしかない。  後はそう、ちょっとだけこんな大勢の方々の前で恥を掻かされた悔しさはあるから、不幸になれ、とは思わないけど、私の前に二度と顔を出すなということと、そうね、苦労しとけ、くらいは思うかな。  のほほんと幸せな日々を送っていることを知ったら腹立たしい、くらいは悔しい。  だから駆け落ちしてちょっと苦労していればいいのに、と。それくらいは思わせて欲しい。  あとは。  後は?  私が幸せだと思える日々を送れればそれでいいと思う。  多くは望まない。  いつか、結婚したいって思うことがあるかもしれないけれど、今はいい。  今は家族と商会の皆さんと少なくても私を大事にしてくれる友人と一緒に過ごすことが出来ればそれでいい。  父に思っていることを伝えたら、分かった、と頷いてくれる。 「無理に結婚しなくていい。結婚したい、と思う相手が出来たら結婚すればいい。私も無理に探すつもりはない」  元々平民のままでは貴族に足元を見られるから……と渋々買った男爵位。国に返上しても問題ない。ただ、平民に戻るだけだ、と何でも無いことのように言う父。  平民に戻ったら、理不尽なことを言われて我慢することもあるかもしれないけど、貴族の柵に囲われるよりずっといい。  そんな父は、だから、と続ける。 「だから無理に貴族と結婚しなくてもいいし、圧力に負けることも考えなくていい。圧力などかけられてもサッと爵位を返上すればいいだけだから」  決して安くない爵位の買取りだったはず。  それでもサラッとこんなことを言える父だから私も気負う必要はないのだろうな、と思う。だったら私は。のんびりと今を満喫させてもらうことにしよう。
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