望まないから得る幸せ

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 そんな父との会話を交わしながら商会に帰った翌日の夕食時のこと。眉間に皺を作った父が深く溜め息を吐いて私を見た。 「えっ、私、今日の仕事、何か失敗した?」 「違う、失敗をしてもメモ書きをして次から失敗しないようにアドバイスを書いているから少しずつ失敗は減っているだろう。そうじゃない」  さすが父はきちんと私を従業員として見てくれているようで、指摘してくれる。  併し、そうじゃないってじゃあなに? 「昨日の、例のご婦人と会っていたことを見ていた貴族が居たらしく、何人か繋がりを持ちたがっている手紙を寄越してきた」 「繋がり……って要するに縁談?」  父の苦々しいと言わんばかりの表情の理由に気付いてこちらも眉間に皺を寄せてしまう。 「縁談の申し込みが二件。お前とご婦人の関係を問うてくる内容が四件。お前の身の安全を案じる手紙が一件。……あのご婦人、隣国でも有名な公爵家の夫人だったようだな。レオに情報を集めさせている」  縁談が二件。男爵家と伯爵家だけど家名を聞けば、学園時代に金策に走っている家だろうと噂を耳にしたことがあった二家だ。  虐めは受けていても噂は聞こえてきたのは、多分学園という閉鎖された空間の特殊性なのだと思う。  そして私とご婦人の関係を問う内容を送って来た四件は…… 「見事に私を虐めていた家ばかりです」  と言っても高位貴族の方じゃなくて、高位貴族の方々が手足のように従わせていた子爵家が三家と男爵家が一家。 「ほぅ。ミルヒを虐めていた、家か」 「昨日、ご婦人に会ったあの宿泊施設は高位貴族御用達です。下位貴族の方々は招かれない限りは利用しないような」 「そうだな。つまり、手足として使っていた側が見ていたということか」  父が直ぐに理解したように頷く。まぁそう考えるよね。誰でも。ただ高位貴族が動くのではなく、手足として使っていた方に尋ねさせる辺り、様子見をしておきたい、といったところなのかもしれない。  ……関係バラしたらどうするんだろう。  とは思うけど。  私はあのご婦人からの提案を断った。  だから公爵家との関わりは口外する気はない。利用出来るものは利用するべきっていう考え方も嫌いではないけどね。  関係バラして掌クルリで謝られても全然心に響かないし、あわよくば取り入ろうって魂胆が透けて見えるし。  という事で私は父に任せることにした。 「対応はお任せします」 「それなら会話までは聞かれていないだろうからウチの商品を気に入ったご婦人に招かれた、とでも言っておく」 「はい」  まぁその辺りが妥当だよね。  その場に私が居たことについては、ご婦人の話し相手に連れて行った、ということにするだろうし。  ……まぁもしかしたら高位貴族の方々が何やら探って、ご婦人の行方不明の娘さんと私が似ているらしいって話を掴むかもしれないけれど、それはあくまでも似ているらしいってだけの事だもんね。  その後色々と想像を働かせるのは向こうの勝手だ。  例えば、私がブルクテン家の子じゃない、という事実から派生する想像、とかね。  それについて肯定はしない。  否定はやんわりとだけど。  それだけで色々と想像するのは向こうの勝手だもんね。
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