望まないから得る幸せ

7/17
前へ
/48ページ
次へ
 そんなわけで、翌朝、私は先ず教育係のミスミさんに昨夜の父との会話、それと任せる、という一言をもらったことを話した。  こういう報告や相談をしておくのは仕事を円滑に進める上で大切なのだ、とミスミさんから聞いていたので。 「成る程。確かにそうね! 私も彼に手紙を書く時は文字が大きくなって便箋を何枚も使っていたわ! それはいいかもしれないわね!」  大きく頷いてミスミさんが了承してくれるし、相談にも応じると請け負ってくれたので、気兼ねなく相談することにしよう。  序でに言えば、最近の我が商会での売れ筋であるカモミールやラベンダーのポプリは、五年程前にミスミさんが父に何気なくリラックス出来そう、という雑談から生まれて商品化して、今では売れ筋なのだから、どんな発想や雑談が商品に結び付くのか分からない、と笑っていたことを思い出した。  そのポプリは昨日、私の机の引き出しに便箋と一緒に仕舞われていた物でもある。  父は誰とでも気さくに話すことで、商品化に結び付けてきた。私の発案も商品化に結び付くと良いなぁと思いながら、いつもの如く仕事を始める。  違うのは、休憩時間にのんびりお茶をするのではなく、休憩時間に便箋と向かい合って色んな幅の線を引いていくという作業だった。 「ミスミさん、線の間隔ってこれだとどう思いますか」 「これは線と線の間が空き過ぎ。実際に文字を書いてみると大きいと思わない?」 「確かに」  ミスミさんが言うには、実際に書いてみることも大切だし、自分で理想とする見栄えのいい手紙を考えることも大切だ、とのこと。  確かにあまり文字が大きいのは貴族的な美しさから外れるかもしれない。もう少し小さめにして、でも小さ過ぎて読めないのは却下して。  休憩時間ギリギリまで文字を書いて線引きをして、の繰り返しだったけれど、納得がいかない。  明日以降も引き続き休憩時間を利用することになりそう、と息をついた。  そうして夕食時、父から尋ねられて進捗状況を話す。  この話に食い付いてきたのはハンネだった。 「え、ミルヒ、何その便箋の話!」 「いや、手紙を書いていて大きい文字で書いていたのが気になってね」  と説明すれば、実は自分も気になっていた、とハンネが力説してくるし、母も強く頷いていた。……意外と皆、気になっていたんだね、ということで、明日以降も引き続き気合いを入れて頑張ってみることにした。 「失礼します、ミルヒ様、お手紙です」  頃合いを見計らったようにレオが差し出してきた封筒を受け取る。  誰だろう、と首を捻る。  差出人の名を見て驚いた。 「えっ、モレーン先生⁉︎」  なんと今朝出した手紙の返信がもう届いていた。父の顔を見ると、知っていたのか、軽く頷く。……こんなに早く返信が来るって先生は筆マメなのね、とどうでもいい感想を抱いた。  ーーいえ、あまりにも驚いて現実逃避仕掛けているだけなのかもしれないけど。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

330人が本棚に入れています
本棚に追加