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モレーン先生からの手紙は、私から直接手紙をもらえるとは思っていなかったこと、嬉しく思ったこと、私の学園生活に何の手助けも出来なかったのに、一度だけ伸ばした手を覚えていて感謝してくれることが逆に申し訳なく思うこと、などが率直に、そして美しい文字に美しい言葉の選択で書かれていた。
そう。手紙が美しいのだ。
文字の大きさや選択した言葉に文字そのものの美しさ。
コレが私の求めていた手紙の美しさのような気がする。
ということで、折角なのでモレーン先生の手紙と比べながら便箋に線引きをしてみた。
その後、引いた線の上に自分で文字を書いてみる。……完璧とは言わないけれどかなり納得のいく仕上がりになった。
モレーン先生からの手紙への返信は後回しにして、私はこの便箋を父に見せることにした。父からもお墨付きをもらったことで、後はミスミさんと相談して販売戦略を立てることにする。
例えば三セットのまとめ売りとか、或いは数量限定で安くするとか、そういったこと。
手作業で線引きした便箋を売るわけだけど、売れるかどうか分からない物に人手を割けないので私がやることになる。
つまり私が数量を決めなくてはならないのでミスミさんと相談しながら決める方がいい、と考えた。
それからモレーン先生へ挨拶とお気になさらず、という一言を添えて返信し、十日が過ぎていった。
この間にミスミさんから了承ももらえたし、最初は三十人程度を見込んで便箋を準備してみたら、という具体的な提案ももらう。
本当は百人程度を見込みたいけれど、三分の一ほどにしたのは、使用した感想が確実にそして直ぐにでも貰えそうなお客様を、と考えるとそれくらいの人数に絞った、とミスミさんが言ってた。
その代わりその三十人ほどのお客様には五枚セットで便箋をオマケとして渡すらしい。その使用感によって値段を付けたり特別仕様にするのか大量仕様にするのか考えたり、今後の販売戦略を考える、と言われた。……成る程、勉強になります。
そうして気付けば十日が過ぎていたわけだけど。
「ミルヒ、話がある」
父が深刻そうな顔で切り出したのは、私の休日の朝だった。
「えっ、今、ですか?」
「うむ」
いやでも、今日は買い付けの日ではなかったっけ?
「ええと、今日は買い付けの日では?」
石鹸を作っている職人さん達の元に月に一度買い付けに父は出向いている。専属契約を結んでいるけれど、品質が保てているか、とか賃金に文句はないか、とかベテラン職人さん達と話し合いを兼ねたやつだ。
「それはレオに行ってもらう」
商人である父が仕事より家族を取る。それも主力商品の買い付けを他人に行ってもらう。
それは、相当な話だ、という事ではないの? と私は知らず知らずのうちに唾を飲み込み、その音の大きさに自分のことなのにちょっと驚いていた。
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