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「レオに代わってもらうほどの、大事な話とは何でしょうか、お父様」
……父の雰囲気に押されてしまい、いつもの気安いお父さん呼びではなく令嬢言葉を習った時の「お父様」 呼びになってしまったけれど、まあそれだけ私だって気が動転している。
こんな雰囲気って、アレだわ。
あの子爵家からの縁談を捩じ込まれた時と同じだわ。え、まさか。
「また厄介な縁談ですか?」
父が話そうと口を開けたタイミングでポロッと思ったことが口から出てしまい、父の出鼻を挫いてしまった。
父がちょっと何故そのタイミングで言ってきた、とばかりに睨んでくる。
それに対して肩を竦めるけど。
でも、あのご婦人……多分私の祖母だろう、公爵家の前夫人との話し合いの事を私に伝える時だって、ここまで深刻そうな雰囲気じゃなかったから……つい。
というか、多分貴族的な思考だったら、子爵家からの縁談より前とはいえ公爵夫人からの連絡の方が深刻な雰囲気にならないといけないのかもしれないけど、そこはまぁ、俄か貴族だから、階級より内容を重視したわけだ。……そうだよね、父よ?
「縁談なら例の支援金目当ての家からの話だけだった。当然断った。そうじゃない」
気を取り直したように否定する父。
では、なに?
「では?」
「アレだ。お前を虐めていた下位貴族達の様子伺いの手紙の件」
「ああ、それ」
父に一任していたのですっかり忘れていた。
「忘れていたのか?」
父のちょっと呆れた表情に苦笑する。
「一任していた、というのも有りますけど。虐められていた記憶を忘れたわけじゃないです。心配させたくなかったから言わないでいましたが、学園に通っていた一年は……眠れませんでした。寝ても夢で嫌がらせされて飛び起きて、そこからずっと目が冴えて……とか当たり前で。だから食欲もあまり沸かなくて」
父がハッとする。
「太ったから食事制限と言っていたのは」
直ぐに分かってしまう父は、やっぱり頭の回転が早いな、と思う。
「食べないのではなく、食べられない、が正解でした。無理に口に入れても気持ち悪くて皆に知られないようにこっそり家の裏で吐き出していたこともあります」
「……そう、だったか。済まなかった」
「いえ。今思えば、話せば良かったと思います。ただあの頃は心配をかけるのは悪い子なような気がして。……多分まともに考えも出来なかったし、自分のことだけだったと思います」
家族が知ったら心配をかける。
それが分かっていたから言えなかった。
でも話さないことで家族を苦しめることになるとも考えていなかった。
結婚式当日にあの子爵子息が駆け落ちしてから、学園時代のことや子爵子息のことを話したらもっと早く知りたかった……と母やハンネに泣かれたことは、胸が痛んだから。
でも、あの頃は言わないことが家族のためになる、と思い込んでいた。
心配をかけることは悪い子なのだ、と勝手に思っていたし、捨て子を拾ってくれたのだからこれ以上迷惑をかけたくない、なんて思っていた。
それが家族を悲しませることになるなんて、あの頃は全然思ってなかった。
今、それが理解できるのは、多分少し家族の気持ちが知れたからなのだと思う。
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