当日でした

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 学園に通うのは貴族ならば義務、だそうで。数年前まで平民だった私も貴族の身分になったら行くことになってしまった。勉強なんか全然していなかったから、必死に勉強したけれど、多分必要最低限だったと思う。そして一年だけ通った。大体十二歳前後から十八歳前後までが通う年齢らしくて、通う年数も人によって違うらしい。  人脈を作るために学園に通う貴族の子が普通らしいけど長く通う人はお金に余裕があったり高位貴族だったりするらしく、お金に余裕がなかったり下位貴族は一年や二年で単位を取って卒業することもあるとか。  私もこちらに当たる。  卒業する単位も通う年数に応じて違うとか。私は当然最小単位で卒業した。  貴族の子なら全員が必ず通わないとならない学園。人脈作りの意図があるけれど、ある程度の学力や常識や教養が無い者が平民を指導する立場に立つのは、不正を横行させ平民を苦しめることに成りかねないから、それを見るためという意味もあるらしい。  ーー建前は随分立派だな、と思う。  身分差というのは仕方ない。我が国は王国だから国王陛下が頂点。その下に王妃殿下を含めた王族でその下に高位貴族が続いて下位貴族で平民。平民の下に貧民。貧民は罪を犯した平民の中でも凶悪な罪を犯した者達で彼らの更生を促すために敢えて貧民という身分を作った、らしい。  我が国の身分制度はそんな感じで、そしてそれに相応しい言動を取るように……なんて学園では言われているらしいけれど。相応しい言動が下位貴族同士の虐めを増長するのなら、学園に通うなんて義務にしなければいいのにと思う。  まぁ生まれながらのお貴族様達は暴力は振るわないけれど、無視か陰口を叩くか、どちらかでもそれをされる側は辛い。  ーー建前は、本当に立派だ。  現実は虐めが横行しているのに。  生来は勝気な私だけど。  爵位というものを得てしまった父と家族のことを思うと、下位貴族の令嬢方の陰湿な陰口にも黙る必要があるし、高位貴族の令嬢方の無視にも慣れないといけなくて。  だって逆らったら爵位返上だけじゃなく、商会も潰されてしまう。  父が頑張った証の授爵。  父の命そのものの商会。  陰口や無視を我慢するだけでそれが守られるというのなら、私は我慢を選ぶ。  ーーでも、そういう道しか選べなかったからなのか、それともそういう道を選んでしまったからなのか。 「ああ嫌だわ。平民の分際でわたくし達の目の前に存在するなんて。平民はわたくし達の視界に入るべきではないのよ」  こんな陰口を聞かされ続ける生活に、私の生来の勝気さが消えてしまった、と自分で分からない程、俯いて肩を、身を竦めて生活するばかりの日々を送ることになっている。  何も言い返せない、やり返せない私は。  いつの間にか、私が気に入らない人になってしまっていた。  卑屈で卑怯で自分を憐れむ悲劇の主人公のような気持ちをした人間に。  それに気づいたのはーー  ーー皮肉にも結婚式当日だった。
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